坪井咲夜の暇な時 その⑨ 〜友人の変化と休憩室〜

総論

【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】

小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!

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ふふーん。と坪井咲夜は業務の終わり、上代葉月と並んで病院の老化を歩いていた。

「ねぇ咲夜。百合ちゃんいないね」

せやな。と上代に相槌を打ち、坪井はどうせ一般病床の休憩室におるんやろな。と考える。

いつものあの不器用鉄面皮の山吹薫から、普段と同じく臨床のあれやこれを学んでいるのだろう。

冷やかしに行ってみるかな。と自分よりずっと背が高い上代を見上げる。

「ほな休憩室に行ってみようか。うちらもご指導のおこぼれにあずからんとな」

「うんいいね。でもさ・・・最近の百合、元気ないよね」

せやな。と坪井は腕を組む。あのおっとりとした上代でさえ気がつくのだから、よほどのことである。

自分もずっと気になっていた。思い悩んでウチらにすら気を遣っているのだから面白くはない。

すぐに休憩室へとたどり着くと、ドアが開いた。そして白波百合が姿を現した。

うつむき、今にも泣きそうな表情を歯を食いしばって、破綻しないように力を込めている。

上代が坪井の袖を引き、思わず立ち止まる。声をかけようと手を伸ばすが白波は自分たちにも気が付かずに、廊下の奥へと消えていった。

「葉月・・・ねぇ」

と上代が袖を強く引く。よくないことが起きている。よくないことが起きてしまった。

「葉月!行くで!」

ちょっと!と袖を握り続ける上代を半分引き摺りながら、休憩室のドアを開いた。

中には椅子に腰掛け、足を組んだままの山吹薫がいた。ゆるやかな茶色の髪に指を絡ませうつむいている。

物憂げな表情はいつもより色濃く影を落としている。一瞬遅れて気がついた山吹は再び目を伏せ首を振る。

「また賑やかな奴らがきたな。今日はもう帰ってくれ。疲れた」

だって。と葉月が坪井の顔を覗き込む。ただ納得はしていないようだった。ウチやってそうや。と心の中でうなずき返す。

ただ聞いたところで答えないだろう。そんなことは短くはない付き合いで坪井も理解している。

断れない理由で問いたださなければならない。百合のことを。何をしでかしたのかを。

「今日は褥瘡形成をしてしまった患者さんのことで、相談にきてん。それやったら断れへんやろ
?」

「明日にしてくれないか?疲れているんだ」

「患者さんは待ってくれへんで?」

むぅ。と山吹薫が口を結ぶ。どこか恨めしげに坪井を見上げた。

卑怯だということはわかっている。患者はもちろん待ってはくれない。

そして・・・傷ついている友人もまた、坪井にとっては大切である。

「お願いします。私も悩むんでいるんです」

珍しく空気を読んでくれたな。と上代を見上げる。口は真っ直ぐに結ばれ、きっと上代も同じことを願っているのだろう。

「仕方がない。少しだけだ」

渋々と言った表情の裏に、巨大な影を落としながら山吹は言った。

さてさて。一石二鳥と行きますか。上代が隅から持ち出した丸いすを山吹とドアの間において向かい合う。

自分の行いが正解であるとは限らない。

ただそれでも正しくありたい。

坪井の奥で、興味本位を忘れるほどの正義感が、燃え広がるのを感じた。

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