束の間の話 その⑦  〜一年の終わりと一年の始まり〜

総論

~山吹薫と白波百合の場合~

白波 百合
白波 百合

ふぃーやっと今年の業務も終わりっすね!

山吹 薫
山吹 薫

なんだその締まらない顔は・・・溶けそうになってるじゃないか

白波 百合
白波 百合

むー何なんすかその表現は!

デスクに積まれた書類はすっかりと整理されている。今年は色々とあったっすねー。と白波は休憩室を見渡してみる。大掃除の終わった休憩室はいつもより明るく見えた。

山吹 薫
山吹 薫

しかしなんで僕らだけ二人で大掃除なんだ。人手が足りないだろう。

白波 百合
白波 百合

まぁまぁ。あっ先輩どうせ今夜は暇っすよね?進藤さんのお店に一緒に行かないっすか?他の人たちも来るらしいっす!

山吹 薫
山吹 薫

行かない。騒がしいのは苦手だ。

白波 百合
白波 百合

まぁまぁ一年の終わりっすし、いいじゃないっすかー

だから・・と山吹はそう答えつつ、まぁ偶にはな。と頬を緩める。どうしても年末になると気が緩むから嫌いだが。それでも後輩の働きを労うのも先輩の役目だと自分に言い聞かせた。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ。後で進藤にとやかく言われるのは嫌だからな。

白波 百合
白波 百合

素直じゃないっすねぇ・・・

えへへと表情を緩ませる白波に、山吹もまたどういう事だと頬を緩ませた。

~上代葉月と坪井咲夜の場合~

坪井 咲夜
坪井 咲夜

よっしゃーこれで終わりや!しっかしなんでウチらが更衣室の掃除せなあかんねん!

上代 葉月
上代 葉月

まぁ皆んなそれぞれの持ち場を掃除してるから。でも気持ちが良いねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

体はぐったりやけどな・・・

更衣室のテーブルに体を突っ伏して坪井は手足をバタバタとさせる。上代もちょっと疲れたかな。と言葉に出さずにそう思う。

上代 葉月
上代 葉月

それで、ちゃんと百合は山吹さんを引っ張ってくるのかな?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

あの人はそういうの苦手そうやからなー。でもきっと大丈夫やろ。・・・聞きたい事も山ほどあるしなぁ。

上代 葉月
上代 葉月

咲夜・・・すごい悪い顔をしてる・・・

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そんな事はあらへん!いつもの可愛い咲夜ちゃんや!

そう頬を緩ませているが目は笑っていない。でもちょっと楽しみだなと上代は思う。偶にはこういうのも悪くないし、お酒が沢山飲めそうだと口元に人差し指をゆっくりと当てた。

~進藤守と沢尻悠の場合~

沢尻 悠
沢尻 悠

しんどーさーん!なんでまだみんな来てないのー?

進藤 守
進藤 守

俺らは今日休みだったからな。というか来るのが早すぎなんじゃないか?

沢尻 悠
沢尻 悠

だってみんなで集まるって聞いたからー。

進藤 守
進藤 守

そうだな。こんなに賑やかなのは久しぶりだな。

進藤はグラスを拭きながら、職場の人間がこんなに集まるのは薫と救急病院にいた時以来だなと思う。その時とは随分と様子は違うようであるけども。

進藤 守
進藤 守

とりあえず薫に連絡を入れておくか。彼奴は照れ屋だからこういうのは避ける傾向にある。

沢尻 悠
沢尻 悠

傾向と対策だねー。オレからも入れておくよー。

進藤 守
進藤 守

そうしよう。そして出来るだけ多く着信履歴を入れておくと、逆に怒って此処に来ざるを得ない。

沢尻 悠
沢尻 悠

それ面白そー。交互に一言ずつ着信履歴入れようよー。

そうだな。と進藤は笑みを浮かべる。怒ってこの店に来る薫の姿を思い浮かべると小気味良く感じる。酒棚の隅に置かれた王冠の形をしたウイスキーボトルがライトに反射して楽しそうに見えた。

~内科で働くセラピストの場合~

山吹 薫
山吹 薫

だ・か・ら・・・・どういうことだ!

白波 百合
白波 百合

まぁまぁ先輩落ち着くっす!

上代 葉月
上代 葉月

・・・ねぇどうしたの?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

沢尻さんと進藤さんが留守電入れまくったんやって。器用に一言ずつ「お・く・れ・ず・に・は・や・く・こ・い」と間隔を空けながら10回もやて!めっちゃおもろい!

山吹を立ち上がって沢尻と進藤を指差して声を張り上げている。それをなだめる白波と腹を抱えて笑っている坪井を上代はたしなめる。

進藤 守
進藤 守

上手くいったな沢尻隊員。ミッションはオールクリアだ。

沢尻 悠
沢尻 悠

任務終了ですね進藤隊長!薫さんを無事おびき寄せることに成功しました。

山吹 薫
山吹 薫

お前らな・・・

互いに戯けて敬礼をし合う二人を見て、がっくりと肩を落とす山吹の肩を白波は叩いた。なんだか賑やかで楽しいっす。不思議と笑みが零れる。

沢尻 悠
沢尻 悠

さーみんなーグラスを手に持ってー乾杯しよー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

さんせー!ええ加減にお腹が空いたわー!

上代 葉月
上代 葉月

そうだねー!うん。すごく賑やか!

進藤 守
進藤 守

それでは薫。乾杯の挨拶をどうぞ。

山吹 薫
山吹 薫

なんで僕なんだ!?

白波 百合
白波 百合

もちろん先輩っすから!

白波の言葉に山吹は口を紡ぐ。まぁ年長者として当然だな。そう自分に言い聞かせてグラスを掲げる。こういうのも悪くないと思えるのはきっとコイツの所為だな。とちらりと白波に視線を投げる。白波は目を丸めたまま首を傾げ、そして大きく笑みを頬に浮かべていた。

山吹薫のメモ 7

・後輩を育てるのには長い時間を掛ける。ただ教えるのではなく育てる必要がある。それが教育だと思う。

・後輩を育てていると自分もまた成長することが出来る。そしてそれは自分を見直す事に繋がる。

・今の姿をかつての先輩や指導者はどう思うのだろうか。←きっと茶化すのだろう。

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