桜井玲奈の歌の譜 その①  〜言葉には出来ない思い出〜

総論

なんという今日は楽しかった日でしょう!

桜井玲奈は自宅の電子ピアノの前で楽譜を捲る。

実家からこちらに引っ越してきた時に一緒に持ってきたものだけど、

ずいぶん長いこと一緒ですわね。とピアノを撫でる。

九州の広い実家では随分と小さく見えたのに、この京都の今の狭い部屋では随分と大きく見える。

さて今日は何を弾こうかしら。

そう考えながら休憩室のことを思い出す。

正直誰かと勉強するのは好きではなかったけど、ちょっと楽しく感じましたわと気持ちは湧き出す。

そしてあの薫様と二度もお会いできた事も。

お話しは出来ませんでしたけどね、と使い古された楽譜を胸に抱いてみる。

出会ってから随分と経つのに、膨れ上がった気持ちは口から出る事をしない。

その言葉さんは自分と同じ恥ずかしがり屋なのが残念なところですわね。

だけどもあそこに通っていればいずれは慣れるのかしら?そうとも思う。

あの休憩室で白波百合が先輩とお勉強している事は随分と前から知っていた。だけどもどうやって訪ねて良いものかは分からなかった。

高鳴る心臓が足を踏み出すのを止めてしまってどうしようもなかった。

ようやく打ち解けたと思われるあの軽薄だけど随分と賢いプリセプターに、患者様の申し送りを届けてくれるように頼まれた時には随分と胸が浮き足立った。

結果的には忘れちゃったけど、結果オーライでしたわね。

しかしあの白波百合には困ったものだと思う。確かに学生の頃とは我ながら随分とイメージは変わりましたけど、忘れるものかしら。

まぁ随分とポヤンとした子でしたから。

そう思いつつ、果たして彼女も私も随分と前に、あの薫様と出会っているのにお互いに思い出さないものかしら。とも不思議に思う。

薫様も薫様で酷いものですわ。だけども私は大勢の中の一人でしたから仕方がない事ですわねと思考を締めくくる。

まぁこれであの休憩室にどうやらまた行けそうですわ。

だけど・・・と桜井は考える。

果たしてあの薫様と上手におしゃべりできるのかしら。

それだけが不安になった。

まぁきっと大丈夫ですわね。と武井は再び譜面を捲る。今の気持ちは何の曲なのだろうか。

頭の中にはあの休憩室のような穏やかな曲が流れていた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

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