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現職の理学療法士が記す、人生における転倒から立ち上がるための本格リハビリテーション小説。
なぜ主任は今になってこんな話をするのだろうか。欺瞞は膨らみつつもひとつの答えに対して、目を背け続けていると山吹薫は、石峰優璃と向いつつ考える。少なくとも彼女もまた苦痛に支配されているだろう。
全人的な苦痛、患者が感じる苦痛に身体的ではなく、当然精神的な部分にも目を向けなければならないということですね。でも口振りからはそれだけではないのでしょう?
あぁもちろんだ。加えて社会的苦痛と呼ばれるものと、スピリチュアルな苦痛と呼ばれるものがある。なんとなく想像はつくかな?。
社会的な苦痛は、疾患によって社会から離れることに関連する苦痛でしょうか?スピリチュアルな苦痛は・・・正直想像がつきません。
難しいよな。と石峰は組み替えた膝先に肘を乗せ身をかがめつつ山吹を見上げる。瞳の奥はリハビリ室を支配する朝日が逆光線となり見えない。
社会的な苦痛とは、疾病に罹患したことによって治療費用がかかったり、今までの仕事が行えなくなると言った経済的問題や社会的役割の損失によってもたらされる。身の回りのことはもちろんだが、社会性を失うことは、強い苦痛を生む。
例えば通院や入院のためにお金がかかり、家族の負担になる。職も時には辞めざるを得なくなり、自分が、そして他人が疾患によって役割の変化に伴う苦痛を感じると言うことですね。
今まで通りの生活ができなくなくなることは、自分自身にも周囲にも苦痛を与えてしまう。身体的な苦痛に起因して、精神的な苦痛にも多大な影響を与えると言うことだな。
主任はどうなんですか?と山吹は口を開こうとして、閉じる。どうしても聞きたいのに、うまく言葉が出てこなかった。許されないと思ってしまっている。
そしてスピリチュアルな苦痛だな。これは自分の終末をいよいよもって意識した時、「今までの私の人生は何だったのだろう?」と人生そのものの意味を思い、感じ、そして悩むと言ったことだよ。死への恐怖と受容を繰り返しつつ価値観が変化する。自責すら感じる。自分のせいで苦しんでしまう人がいるのだから。
苦しむ必要はないです。と言いたいとは思いますが、他者からの安易な言葉が、さらに苦痛を進めてしまうとも思ってしまいます。
何気ない言葉でも救われるよ。ただ早く死んでしまいたい。消え去ってしまいたいと想いに至ることもある。信じていたはずの人生に、神や仏といった存在にすら裏切られたと思ってしまう。どうしようもないほどに自分を縛り付ける苦痛となる。
主任は神を信じますか?と山吹が問うと、石峰は静かに首を横に振る。それが答えだと思った。
山吹薫の覚書115
・社会的苦痛とは、疾患に伴い変化した自身と社会、そして家庭との関係性の変化によりもたらされる。経済面も大きく関与する。
・スピリチュアルな苦痛とは、終末を意識することにより生じた価値観の変化や自責、恐怖と言った自身の人生に対する問いと諦めに似ているかもしれない。
・主任は去るのだろう。僕の前から、おそらくずっと。
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小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
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