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「君たちの言う正常で正しい動作は私にとっては呪いの言葉でしかないんだ!」
僕と彼女は、人生における転倒から立ち上がれず暗く正常からは逸脱した場所で再び出会った。
現職の理学療法士が記す本格リハビリテーション小説。
白波百合は進藤守に連れられて入ったST室で、向かい合い意図が見えない表情のまま、話を続ける進藤を眺めた。彼もまた山吹薫のように思い出をたくさん携えているのだろうと。
口腔ケアの話を続けようか。目的については話したが、臨床において誤嚥性肺炎の予防が大きな目的の一つとなる。誤嚥性肺炎とはどのようなことだろう?。
それは前に習ったっすね。食物などを誤嚥、本来通るはずの食道ではなく肺へと繋がる気管へと流れ込んでしまって肺炎を起こすっす。
そうだな。加えていうと唾液もまた問題になる。すべての患者ではないが、口腔内で原因菌が増殖し、唾液が流れ込む・・・垂れ込むという方が正しい表現かもしれないが、それらを繰り返し誤嚥してしまうことでも誤嚥性肺炎を発症してしまうんだ。
進藤は言葉を結んで一度言葉を止める。山吹の思い出の中では進藤はもっと賑やかな人だったなと白波は考える。同時に長い年月、先輩たちは過去を思って生きているとも考えた。
その点も含めて口腔ケアが大切になるっすね。誤嚥をするからだけではなくて、誤嚥という侵襲に体の抵抗力が勝てなかった時に肺炎が発症するっすから。
よく覚えているな。そして口腔ケアが必要になる患者は、言い換えれば自身で口腔ケアが行えないほど身体機能が制限されていて、時に体はひどく弱っている。だからこそ誤嚥性肺炎のリスクが高く口腔環境の維持や改善が必要となることが多い。
それは臨床でも在宅でも変わらないっすね。もし家族の介護が必要になって退院する人にもしっかりと教えないといけないっすね。
それが俺たちの仕事だな。と進藤は白波の目を覗き込みながら言った。言葉以外にも進藤の瞳は心を覗き込んでいる。深い場所を覗いている。
もちろん誤嚥性肺炎を予防することは口腔ケアだけではないが、予防するためには必要であることは変わらない。リハビリを円滑に進めるためにも、そして生活を続けるためにもな。
入院中や、在宅で誤嚥性肺炎を発症して今まで出来てきたことができなくなる人はたくさん経験したっす。重症になればなるほど、望んだ生活から遠のいてしまうっすから。
いつまでも望む生活を続けられるわけではないが、それでもずっと同じ生活は続けたいからな。
だろう?と進藤は口元を崩した。笑みとも取れる表情に白波は曖昧に微笑む。急に山吹がいるだろう休憩室へと足を向けたくなり、理由がないとわずかにうつむいた。
白波百合の覚書 2
・口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防になる。
・口腔内の環境を保つことにより、肺炎の原因菌の繁殖を防ぐことにもつながる。
・先輩に会う理由が見当たらない。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
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