山吹薫の独り言 その① 〜リスキーなバイタルサイン測定〜

バイタルサイン

白波が休憩室を出てから、山吹はゆっくりと文献を整える。

正直バイタルサイン測定から教える事になるとは驚いた。

しかし、それも当然の事かもしれないと思う。

学校では手技と国家試験に使える知識を教えるし、実習では理学療法士として最低限働ける事を教える。働き出してからは仕事を覚えなければならない。

基礎からじっくり勉強する時間は限られるし、お互いにプロなのだから学生のようにゆっくり
教える事はできない。やるべき事は山ほどあるからだ。

故にそれは仕様が無いことだが同時に不安でもある。

ただ測れば良いと言うわけでは無い、何事もそうだけど。

生命の兆候を図り間違えるとそれは患者にとって直接的に危険な事だ。

もちろん普段はそんなに気にしないでもリハビリは行えるかもしれない。

ただ万が一の事が有り得る。

だけども、ただ測定すると言った認識ではそれが千に一つ、百に一つと確率が上がる。

そして、たちが用いるのは運動療法だ。そして何らかの病に対して運動療法を用いる事は、
薬物療法と似た事だとも思う。

ただ有効量が幅広いだけで、有毒量と致死量が無い訳でもない。

ではどうすれば良いのか?やる事もまた膨大だ。

その中で、特に疾患に合わせたバイタルサイン測定が一番重要だと思う。

もちろん疾患と症状と、その経過に合わせてである。

白波が怒られた事を例に挙げると、心原生脳梗塞であるならば、ベースに心疾患がある。と言う
事だ。そのために例えば回復期病棟でも脳梗塞の症状が安定していたとしても心疾患を念頭に置いたバイタルサイン測定が必要になる。

なぜならその多くが既往歴としてカルテに書かれているが、それは現在も継続している合併症
でもあるからだ。

そしてそれを見誤った介入をすると程なくして『急性増悪』となり、出勤したセラピストは、酸素療法中の昨日までは元気だった患者と対面することになる。

それに麻痺に対してのリハビリは当然、麻痺の機能向上を目指す。

機能が低下して腕を持ち上げるのは、非麻痺側に過度な錘を付けて動かすものだから、当然心負荷も上がる。運動の量は安全に上げれても、運動の強度を上げるときには最新の注意を払わなければならない。モニターがあれば安心だが全ての患者をモニタリングする事はない。

それではどうすれば良いのか?疾患に合わせたバイタルサイン測定と『フィジカルアセスメント』が必要になる。看護分野では当たり前なのだが意外と知らないリハビリスタッフも多い。

急性期だけではなく特に一般病床や療養型病床では必ず必要なスキルだと思う。

思うのだけど、習得するにはやはり時間はかかるし、まだまだ私もまた勉強が必要だ。

されさて何から教えるべきか。山吹は文献を見返す。

・・・学ぶだけなら簡単なのだが、教えるのはこうも面倒臭い。

だけども教えなければならない。白波が優秀ではないと言うことでは無く、

こうも私の話を聞いてくれるなら、指導もまたプロの責務だ。

まぁゆっくりやろう。フォローならば幾らでも出来る。

山吹は席を立つ。何だか、やたらと肩が凝る。

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