白波百合の頭の中 その② 〜臨床での勉強とその結果〜

総論

ふむ。と白波はノートを閉じてゴロンと横になる。

大きなクッションに体を埋めながら大きく伸びをした。

それにしても最近は我ながらよく勉強をしている気がする。

それもこれもあの休憩室に行くようになってからだと思う。

働きだしてからの勉強は学校でやっていた勉強とちょっと違う気がする。

多分それは定期的にテストが無いからで、そしてゴールも無い。

だから勉強を続けるという事は中々難しかった。

もちろん必要に迫られたら自分でも調べる。

調べるけれど、どうしてもそこで終わってしまう。

だから勉強するという事はやっぱり楽しく感じた事は無かった。

それがちょっと最近では違ってきた気がする。

知識が増えると、普段目にするカルテも違って見える気がする。

たった1ページのカルテでも多くの情報があって、何だか世界が広がった気がする。

たった1回のバイタルサイン測定でも、分かる事が違って感じる。

それは正直嬉しい。だけども大変な事も間違いはない。

難しいものっすねぇ。と白波はぽつりとこぼす。

そして、何で先輩はこんなに教えてくれるんすかねぇ。と疑問に思う。

前も聞けば他の先輩は教えてくれる事もあった。

だけども結局はその答えは人によって違った。

最終的な判断は自分で下し、賛否はあろうともその時に学んだ事を信じるしかなかった。

教科書や文献と臨床は違う。何度もその言葉を聞いた気がする。

十分なキャリアが無い限り、いくら自分が勉強した事でも信用される事は無い。ならその分実績を積んで成長すれば良い。

その言葉も沢山聞いた。だけどもやっぱり経験年数という言葉は、どんなに学んだとしても大きな壁として正直な所感じる。

そして行き着くのは結局の所、反映されるのは、経験年数順に述べられる言葉だ。

決してそれは間違いでは無い。だけども経験年数だけを積んだセラピストの知識を供わない言葉はどこか浮いて見える。決して言葉には出せないけれど。そんな事も去年嫌という程経験した。

答えなんて人の数だけあるからどれを選ぶかは自分次第だ。

そしてそれは、結局相手を信用出来るか出来ないか、そんなものな気がする。

頭が良くても皮肉屋で、いつも教えてくれるけど何処か不器用で、そんな先輩でも信用は出来ると思う。

一度嫌な事を思い出して凹んだ時があった。

結局、友達と遊んで元気になったのだけど、その次の日の先輩ときたら、そわそわして、こちらの顔を伺いながら話す姿は何だか可愛らしかった。

へへへ。と白波はクッションをぎゅっと抱き締める。

そういえばもちろん先輩にも新人の時があって、今でもきっと誰かの後輩なんだ。

きっと、すごく生意気な後輩だったんだろうなと白波は想像する。

そしてその時の指導者はどういう人だったのだろうとも考えた。

特に最近、先輩は何かを思い出しながら話していた様にも思う。

もしかしたら、その人の事を考えていたのかもしれない。

どうやって教えていたんだろう。そんな感じで。

いつか誰かを指導する時に、ウチは先輩を思い出すんすかねぇ。

白波は先輩の様に休憩室で気怠げに腰掛けながら先輩の様に話す自分を想像してみた。

ちょっとそれはやってみたいと思った。

さてと。白波は埋もれたクッションから体を持ち上げる。

勉強するっすかねぇ。

閉じられたノートを再び開き、白波は見返す。

そこには先輩の言葉がずっと並んでいる。

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