血圧の話 その①  〜そもそも何故血圧が必要なのか〜 【山吹薫の昔の話】

バイタルサイン

ふむ。山吹薫は電子カルテを眺めながら腕を組む。そこには昨日、集中治療室に入院した患者の脳画像が映し出されている。出血は広範に及び脳圧を下げるための開頭術が施されていた。

石峰 優璃
石峰 優璃

なんだ新人?今日も居残りか?

山吹 薫
山吹 薫

仕事はとうに終わりました。自己研鑽中です。

石峰 優璃
石峰 優璃

はっは!そうか。どこかで聞いたセリフだな。そして・・・あぁ、先日の患者だな。確か君の受け持ちでは無いはずだが?

山吹 薫
山吹 薫

自己研鑽のために見ているだけですよ。

そうか。と光に透けて細い毛先が朱色に見える長い髪を揺らし、石峰優璃は山吹の隣でカルテを覗き込む。オレンジのような柑橘系の香りが山吹の辺りを漂う。

山吹 薫
山吹 薫

僕はまだ集中治療室でのリハビリは行えませんからね。でも症例の経過を見る事くらい良いでしょう?

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。それは良い事だ。誰かのリハビリでもその経過を学ぶ事が必要だ。如何なる著名な作家でも最初は模倣から始まるだろう。オリジナリティはそれからだ。

山吹 薫
山吹 薫

何事にもスタンダードは有りますからね。という事でしょうか?

石峰 優璃
石峰 優璃

まぁそういう事だな。どうだ?この前みたいにお話をしないか?

自分にはまだ集中治療室でのリハビリは行わせてはもらえていない。自信が無いわけではないが過信もまたしていない。この小さな、成人しているかどうか分からない程幼い主任からオーダーが出た時、やっと自分も認められる。山吹はそう思う。

山吹 薫
山吹 薫

望むところです。さて今日はどんなお話をしますか?

石峰 優璃
石峰 優璃

よろしい!そうだな・・・『血圧』の話はどうだ?

山吹 薫
山吹 薫

それはこの前話したでしょう?

石峰 優璃
石峰 優璃

定義だけな!

言葉少なくそう言って石峰は両手を腰に当てて胸を張る。それでも小さいのは変わらないのだがな。と山吹は一つだけ息を吐く。

石峰 優璃
石峰 優璃

そもそも何故血圧が必要なんだ?

山吹 薫
山吹 薫

それは・・・・必要な臓器へと血を巡らせる為でしょうか?

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。人は生きているだけで多くのエネルギーや酸素を必要とする。当然それが途絶えると途絶えた部分にはエネルギーやそれを生み出す酸素もまた供給されない。そして程なくして障害される。

山吹 薫
山吹 薫

それを必要な部分へと送り出すのが血圧という訳ですね

確かに・・・と山吹は言葉に出さずに感心する。そもそも何故それが必要なのかを考える必要が有る。そして説明する必要も。当たり前に行っている事こそ蔑ろになってしまう。

石峰 優璃
石峰 優璃

それで君の血圧はどうやって維持されるんだろうか?途絶えると大変な事になるぞ?

山吹 薫
山吹 薫

先ずは心臓の収縮力、心臓が縮まる力が乏しければ当然圧力も低下します。そして血管の弾性ですかね。血管が十分に弛緩と収縮、広がって縮まらないとその先に血は巡りませんから。

石峰 優璃
石峰 優璃

そもそも心臓が収縮する事が必要だな。心臓も自動的に動いているようで神経支配下で動く。よってその神経の道筋が混線すると上手く収縮ができない。

山吹 薫
山吹 薫

不整脈という訳ですね。それが左心室、心臓の四つの小部屋にある左下の辺り、体に血液を送り出す部屋ですね。そこに刺激が十分に伝わらないと心臓は十分な血液を送り出す事は出来ません。

石峰 優璃
石峰 優璃

そしてそれは致死性の不整脈に繋がると血液は巡らずに死に至る。そうでなくとも血圧に影響を与えるほどの不整脈の出現で、僅かな運動で失神や栄養や酸素が体に巡らず息切れを感じる。

少し説明が専門的すぎたか?山吹は顎先に手を当て首を傾げる。主任を満足させないときっと認められやしないだろう。

山吹 薫
山吹 薫

心臓が適切に拍動しているかの心拍数と心臓が一回の収縮でしっかりと血を送り出せているかの一回拍出量、そしてそれらを合わせた心拍出量と血管が上手く最後まで伸び縮みできているかどうかの抹消血管抵抗で血圧が成り立つのですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

果たしてそうかな?例えばそもそも血の量が足りなければどうする?送り出すものが少なければ圧力もまた少ないだろうね。循環血液量という訳だ。高度の脱水や外傷による循環血液量の低下では血圧が保てない。

山吹 薫
山吹 薫

ならその三つです。

石峰 優璃
石峰 優璃

ふむふむ。そうなのか。では血の巡りが悪い時、例えば血液がベトベトして上手くサラサラ流れないと、心臓は収縮力を増して血圧を上げて流れを円滑にしようとするだろうし、そもそも血管が硬化していると血の流れが悪くなるから、また心臓は力強く拍動する必要が有るな。

真っ黒の大きな瞳をキョロキョロと楽しげに動かしながら石峰は語る。

山吹は腕を組んで肩を怒らせる。きっと全てを知っていて訪ねてくるのだからタチが悪いと思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして心臓が収縮する時の最高血圧、そして血管が押し出す最低血圧、それらを計算式で割り出される平均血圧というのがあるな。

山吹 薫
山吹 薫

心臓が収縮しないタイミングでも血は巡らさなければならないから、その指標ともなるんですんね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。そう考える事も出来る。どうだ?これで血圧がなぜ必要かと、どうやって保たれているかが何となく理解できただろう?

山吹 薫
山吹 薫

確かに教科書で読むよりも誰かと話していた方が分かりやすい気がする・・・

そうだろう。と主任は口角を三日月のように広げて尊大に笑みを浮かべた。いつかその笑みを感嘆し驚く口の形にしてやろう。山吹はそう思った

山吹薫の覚え書 ⒌

・そもそも血圧は重要な臓器に血を巡らせるために必要。

・心臓の収縮力、血管の弾性、抹消血管の抵抗性、動脈の硬さ、循環血液量、それが血圧に影響する。

・いつか主任を感嘆とさせよう。←今はまだ敵わない。今はまだ。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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