さてと。と山吹薫は頭の中の事を頭の中で纏めてみる。こめかみに手を当て目を閉じながら、その膨大な情報量を処理する。すると・・・ぬはは!と巨大な笑い声が響くのが聞こえ目を開くと、そこには岩水静が巨大な体躯のままに聳え立つ。
ぬはは!また面白そうな事をやっておるな!
何というか声が大きすぎますよ・・・
しっかし何を食べたらそんなに大きくなるんだろうねー
はは。なんだか賑やかになってきたな。
なんというか三人揃うとやたら屈強に映るものだと山吹は内海青葉と石峰優璃、そして岩水を見てそう思う。
岩水さんは置いておいて、とにかく話の続きですね。
なんだ釣れない事を言う新人だな!
まぁまぁ。先ほど話した間脳だがそこに中脳と橋、そして延髄を含んで脳幹となる。脳と脊髄をつなぐ場所で生命を維持するための重要な場所だ。
そうそう。大脳辺縁系周辺が生きるための場所なら、脳幹はその生きるために、生命を維持するための凄く重要な場所なんだよ。
山吹は昔、祖父と見た時代劇を思い出す。確かその首から上の脳幹に対して針を刺していたような気がした。勧善懲悪とはいえ今考えると物騒だ。
運動にも大きく関わってくるな!そしてそこから伸びる脳神経もまた重要だ!嗅神経は嗅神経核を経由するが、視神経や聴神経は中脳を経由し、視床へと到達する。
対光反射や眼球運動にも上丘という盛り上がった部分が作用するねー。視点を動かしたらピントを合わせたりといったとこかなー。中脳の近くは瞳孔の動きにも作用するから、脳ヘルニアといった重篤な状態はその部位の障害も意味するねー。
下丘は音の重要な中継点でもあるな。そして大脳脚と言って、脳から発せられた運動の指令の通り道があるから、運動する時にもちろん重要な場所だ。
脳幹は正直苦手だと山吹は思う。多くの場所と機能がありそれが混在している。取り敢えず大まかに理解しよう。そう思う。
そしてその下には橋と呼ばれる部分がありますね。
そうそう。そしてそれは重要な通り道で、特にお顔に分布する三叉神経や顔面神経、そして目を動かす外転神経や、バランスにも関与する前庭神経と蝸牛神経が出るねー。
そしてバランスや運動のパフォーマンスに強く関与する小脳との連携も強い。中小脳脚と呼ばれる後方に位置する小脳との渡橋がある。これが橋と呼ばれる所以らしいな。
それに青斑核という外的な刺激に対して鋭く反応し、ノルアドレナリンを合成する場所もある!これは広範に脳へと作用し、ストレスに対して抵抗するのだ!
巨躯を震わし岩水はそう答える。何も戦うことだけが抵抗する訳ではないだろうと山吹は思う。
最後は脊髄、まぁ頸髄へとつながる延髄だな。ここが一番生命維持に関与すると私は思う。呼吸や循環を調整する中枢が存在し、そして飲み込みや消化管の中枢も存在する。そして主に飲み込みに関する脳神経系が分布しする。そしてその前方を運動の指令が脊髄へと伝わるんだな。
錐体交差というやつですね。諸説はありますが脳から降りてきた指令が、反対方向へと向かい更に下降する場所ですね。だから損傷した脳と反対に麻痺が出るのでしたね。
だから延髄の外側に障害が出ると運動は問題ないけど、嚥下が酷く難しくなるワレンベルグ症候群と言われる病態を呈するのだよねー。本当にこれは苦労するんだよぉ・・・
故に時代劇では悪役を倒す時にここを攻撃する訳だな!絶対にやってはいかんからな!似合わんぞそういう事は!
あんたが一番似合っていそうだよ・・・と山吹は思い、まさか同じことを考えていただなんてと肩を落とす。
ここまでが脳幹の話だが、橋の後方に位置する小脳もまた重要な場所だ。ヒトに元々プログラムされている動きや、その後に学習された動作を無意識に行える場所であり、そして運動を成立させる為にそのサポートと調整を行う場所だ。
運動している間もその都度、その一瞬一瞬に感覚は脊髄を通り、脳幹や小脳、そして脳自体に戻りながら、ちょうど良い運動を行えるようにするんだよねー
小脳の障害では体がやけにふらついたり、眩暈も起こして嘔吐が見られるのもそのためだと思いますね。
して俺がここで新人へ手刀を行うとして、小脳に障害があれば途中で止めることが出来ず、新人は失神してしまう!
ぬっはっは!と笑い声を上げる岩水を見上げながら山吹はきっと絶命するだろう。そんなことを考えた。
小脳と前頭葉が密接な関係があるのもそういう事かもねー。
どういう事ですか。でもこう考えると頭は本当に運動だけではなく、そもそも生命の維持を成立させることが最重要ですね。
もちろんだ!そしてそれを維持する為に異常を察知し修正する。それも一つの恒常性だな。それに脳幹は複雑に経路が入り乱れているから、今後も状況は変わっていくかもしれんな!
さてそこで新人君。右手を上げてみようか。
ん?と山吹は首を傾げたまま右手を上げる。今度は何が始まるのだろうかと不安にもなる。
一体なんなんですか?
君が今右手を挙げただろう?今、君の中では何が起こっているか、それを私に説明してくれ。
また難題をと思いつつ山吹は思考を巡らせる。それほど自分の中の事ほど分からないものなのだ。興味深げに見つめる主任の瞳の覗き返しながら山吹はそう思った。
山吹薫の覚え書 26
・間脳、中脳、橋、延髄から構成される脳幹は生命時に重要である上に、運動を調整する為に必要な場所である。
・神経経路が複雑に入り乱れている。他にも色々機能があるようだが、それは今後の課題だ。
・自分の中では何が起こっているのか。言葉にするのは難しい。
【これまでのあらすじ】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』
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