【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
なんや。こっちも落ち込んどるやないかい。坪井咲夜は見慣れた休憩室で文献に目を落とす山吹薫を眺めた。目線は文字の上を滑っているように見えた。上代葉月は坪井と山吹を交互に眺めていた。
さぁさぁ。いつものように可愛い後輩の思い悩む疑問に答えてくれへんかな?褥瘡のケアについて知りたいねん。ええやろ?
可愛いという部分以外は否定はしないが、明日でもいいのではないか?
そうですけど・・・今、知りたいんです。
そうか。と山吹が言葉を結ぶ。上代もウチと同じことを考えておるんやな。と坪井は息を吸い込む。知りたいのは、白波百合が落ち込むほど、ここで何が起きたのかだ。すんなりと話してはくれないやろうけどな。と坪井は腕を組む。
仕方がないな。褥瘡について知っていることを話してくれ。まずはそれからだな。
えぇと。寝返りとかができない時に、同じ場所に圧がかかりすぎる時にできる、潰瘍・・・みたいに傷害されることですか?
そやな。2005年に日本褥瘡委員会は「身体に加わった外力は骨と皮膚表層間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる」と定義しとる。血液が十分に満たされることなく障害された結果、潰瘍のような褥瘡ができるんやな。
なんだ知っているじゃないか。と山吹は眉間に皺を寄せ坪井を見る。手元においた文献へチラリと視線を移した後で、これくらいはな。と坪井は目を細める。
定義としてはそうだ。ただ圧迫だけで生じるわけではないことを念頭におく必要がある。もちろん同じ姿勢でいると中央の部分に圧迫がかかるのは当然だ。しかし沈み込むように圧迫部分の周囲では圧迫部分を引っ張る、ひっぱり応力、そして圧迫しながらずれる、せん断応力が働くことを覚えておくこと。
ふむふむ。ということは圧迫されているだけではなく、圧迫部分の開くように、そしてずれるように力が働くから傷が治りづらかったり、開くような力が働くと言ったことやな。
そうやって潰瘍・・・傷が形成されて、人によっては広がっていくんですね。
その通りだ。と山吹が足を組む。目線は膝に置いた手元に注がれていた。ようやく饒舌に話し始めたな。と坪井は口角だけで笑みを作った。
でも不思議ですね。適切な介入が病院や施設でされているのにもかかわらずに、褥瘡はゼロにはならない。在宅で一人暮らしなら仕方がないですが・・・。
褥瘡にも色々あるんだ。形成されるのも体動の可否、除圧の頻度以外にも要因がある。それに今後はさらに高齢者が増えていくのは目に見えているからこそ、頻度も相対的に増えていくだろうな。
ならなおさら知っておかなあかんな。よろしく頼むで。山吹先生。
よろしくお願いします。と静々と頭を下げる上代から視線を逸らして、先生ではない。と山吹は視線を外した。
山吹薫の走り書き 1
・褥瘡形成は圧迫だけではなく、引っ張り応力や剪断力も重要な因子である。
・高齢社会が進むにつれて、増えていく問題でもある。
・坪井は何が目的だ?
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【告知】
発売日から即完売の今話題のこの作品!現職の理学療法士が記す本格リハビリテーション小説『看取りのセラピスト』。
Amazonから『看取りのセラピスト』で検索をぜひよろしくお願い致します。こちらからもどうぞ。
コメント