【告知】
発売日から即完売の今話題のこの作品!現職の理学療法士が記す本格リハビリテーション小説『看取りのセラピスト』。
Amazonから『看取りのセラピスト』で検索をぜひよろしくお願い致します。こちらからもどうぞ。
それにしても百合はどうしたんだろう。上代葉月は視線を落とし続ける山吹薫を眺めた。きっと咲夜は気がついているんだろうなぁ。と坪井咲耶を横目で見た。
褥瘡の進行は速いことはわかりましたが、どうやって褥瘡は治っていくんですか?
褥瘡の治癒過程と、皮膚の創傷治癒過程と言い直すこともできる。健常者ではあるが、まず受傷直後から5ー6時間かけて出血から血液凝固が始まる。これが凝固期だな。ここから時間をかけて傷は治る過程を辿る。
もちろん傷があると発見されて、傷をこれ以上深くしないように対策をしつつ・・・やな?
そうだな。と言葉を詰まらせる山吹と尊大な笑みを浮かべる咲夜を交互に眺めた。やっぱり山吹さんが原因なんだな。と上代は心の中で頷いた。
そして損傷組織を綺麗にするため好中球やマクロファージが遊走し炎症反応が著名な炎症期へとつながる。炎症期が進むとようやく肉芽と呼ばれる新しい組織の芽の形成と、新しい血管が組織を満たしていくんだ。これが増殖期と呼ばれる。
やはり時間はかかりますね。痛みも伴うと思います。
そうやなぁ。痛みは苦痛やし出来るだけ痛みが続かないように適切なケアを検討しなければあかんな。
あかんよな?と念を押すように咲耶は山吹に言って、そうだな。と山吹が返す。言葉の表層だけではなく、言葉に隠された真意で対話している。高度だなぁ。と上代は感心した。
スムーズにいけば、2-3日後に傷が収縮し、線維芽細胞がコラーゲンを分泌し始める。再構築期だな。そうして創部が治癒していくわけなのだが、もちろん基礎疾患や栄養状態、感染といった褥瘡を進行させている病態に大きく影響を受ける。
なるほど。なら褥瘡を発生させていた要因に対してもしっかり対策をしなければいけないと言うわけですね。ただ傷が治るのを眺めていたり、待っていたりしてはいけない。より傷が深くなるから・・・と言うことですね。
そっそやな。結構しっかり言うねんな。葉月は?
何を?と首を傾げて上代が坪井を見る。何か失礼なことをいってしまっただろうかと山吹を見ると、首をもたげる山吹が正面に見え、どうしたのだろうか。と上代は口元へ手を当てた。
山吹薫の走り書き 4
・創傷治癒は血液凝固期→炎症期→増殖期→再構築期で分かれる。
・そもそも褥瘡を形成させる。もしくは増悪させた要因の対策が必要である。
・傷は放っておけば、眺めているだけでは決して治らない。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【告知『坂道と転び方』】
—note創作大賞応募作品。表題左下のハートマークをぜひチェック!現在無料公開中!-
「君たちの言う正常で正しい動作は私にとっては呪いの言葉でしかないんだ!」
僕と彼女は、人生における転倒から立ち上がれず暗く正常からは逸脱した場所で再び出会った。
コメント