進藤守の想い出 その①  〜ヒトを見て人を感じる時〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の想い出

リハビリ室を後にすると、すっかりと外は夜の帳が下りている。

地域の中心的な救急病院だからか街灯が無くても明るく見える。

夜に溶けた赤色は昼間よりずっと明るく見えるな。

進藤守は立ち止まって、まだ明かりの灯るリハビリ室を見上げながらそう思った。

そして石峰優璃は不思議な人だと思う。そしてそれに寄り添う山吹薫もまた随分と変わっているなと思う。

二人して夜な夜な何をしているのか、おそらく殆ど居ないであろう薫の友人として・・・まぁ結局は好奇心なのだけどそれを確かめて見てそう思った。

石峰さんを最初見た時には随分と可愛い主任だと思った。次に話した時には全身状態のアセスメントで論破され、山吹と二人で店に訪れた時には以外と楽しい人だと思った。

そして今日、薫と一緒にリハビリ室で学んで見て思うのは、酷く現実感に乏しい人であるという事である。

もちろん彼女はこの世に存在しているし、現実に存在している。

普段客商売をしているからか、自分はいろんな人の事を見ているとは思う。その人がどういった人なのかは話してみれば結構分かるものだ。

だけどその誰とも違う何かを石峰からは感じる。

同じ人ではあるのだけど、そうとは感じられない何か。

現実に存在しているようで、大気中に霧散してしまいそうな何か。

そして目の前にいるのにも関わらずに、どこか遠くに居るような何か。

その正体は今の自分には分からない。

そして薫もまた違う意味で変わっている。あまりに頑なで真面目で自分を抑えすぎている様にも思える。

何かを何かの型に当てはめてしまい、結局自分の事すら分かっていない。

人を構成するものはそれまでの環境に強く影響される。

二人の過去に何があったのかは分からないし、多分それを語る事はないだろう。

人と語るのは好きだ。その人が見えるから。だから言語聴覚士になったのかもしれない。それを失う事は酷く悲しい事だと思うから。

さてと・・・と進藤は再び歩き始める。

そう言えばあの二人はなぜ互いの名前を呼ばないのだろう。

ふとそんなことも気になった。

疎らな街灯はどこまでも続いていくかの様に、視界の中で小さくなっていく。そしてサイレンの音がして夜はまだ終わらない。

そんなことも考えた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

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