先輩!買ってきたっす!
別に頼んだ訳では無いのだけど。
山吹の目の前には2Lのスポーツドリンクと500mlの番茶が置かれている。
そしてこのお茶はなんだ?
えへへー好きなんすよ!ペットボトルの割にこれはオススメっすよ。
ふぅん。僕はコーヒーの方が好みだけどね。
ふふふ。まだ本物のお番茶を飲んだ事ないからっすね。いつかお番茶党に加入させてやるっす。
白波は楽しそうにお茶のラベルを眺めている。そんな事無いと言いそうになりながら、山吹はそう言えばそうだと思った。
とにかく電解質の話の続きをしようか。細胞の中には沢山、カリウム(K)があると話したね?
細胞の外のナトリウムと、入れ替わり立ち代り刺激を運ぶんすね。
まぁそんな感じだよ。そしてカリウムは概ね腎臓から代謝されていく。しかしそれが異常になると、高カリウム血症や低カリウム血症になる。
それは知ってるっす。ヤバイやつっすね。
そうならないように常にモニタリングが必要で、確認されたらすぐに補正される。補正とは補い正されるという事だね。
それくらい分かるっすよーと白波は眼を細める。なら良いと山吹は返した。
カリウムが足りなくなる。もしくは過剰となる。こうなると体の機能は上手くはいかない。
体が動かなくなったり、頭がぼぉっとしたりするんすね。
他にも消化器が上手く働かなかったり、自律神経に症状が出る。まぁ体全体がなんだかいつもと違ってくる。そういう発言があったら注意だ。
うっす!カリウムはしっかり確認するっす。
もちろん自覚症状もだよ。そして前に話した致死性不整脈の事は覚えているか?
心臓がブルブル震えて血圧が保てなくなる、AEDが必要なやつっすね。
心肺蘇生もだと山吹は答える。内心よく覚えていたと思った。
それでそれがどうしたんすか?
うん。心臓もまた筋肉だ。カルシウムとともにNa-Kポンプが作用する。カリウムだけではないけれど、そのバランスが崩れるとつまり?
心臓の働きも上手い事いかないっすね・・・
そうだね。そしてその状態では運動はできないよ。唯々リスクが上がるだけだ。なのでカリウムが上がっていたら必ず先生や看護師や僕でも良いから相談するようにね。極端な話だけど普段のリハビリを行うよりもずっとリスクが高い事を覚えておくように。
もちろんっす!
とにかく相談してもらえれば良い。山吹はそう思う。稀に見る事ではなく臨床では特によくある事なのだから。
他にも腎臓が悪かったりするのは当然として、薬剤の影響や食生活なんかも関係する。透析の既往があったりなんかしたら要注意だ。
なんだか話を聞く度に情報収集する量が増えていくっす・・・
情報はあればあるほど有利だからね。そしてカルテに全て記されている訳ではないから自分で調べる事が大切だよ。
とりあえず先輩は、本物のお茶を飲んだ事が無い事が分かったっす。
そんな事は・・と再び口に出そうとして山吹は視線を逸らす。口癖になっているかもしれない。そう思った。
まぁ余談だが、透析を行っている人のリハビリをする事もまぁ有る。腎臓リハビリテーションと呼ばれる分類にはなるね。この病院ではやっていないけど。
先輩はやった事あるんすか?
もちろんある。透析の機械の隣で、ストレッチや簡単な足の運動を負荷に注意しながら行う。
ほぇぇ。怖いっすね。
必要な事だから。モニタリングする事も山ほどある。カリウムはその一つだね。それに関連して腎機能の把握も生化学検査から行わなければならない。
ふむふむ。ならその腎機能はどうやって見ていくんすか?
それは、と山吹は続ける。
順を追って話すよ。とにかく次によく見る電解質を考えてみようか。
ふぅん。なんか色々気になるっすねぇ。
何がだ?と山吹は答える。別に?と白波は答えて席を立つ。
ゴソゴソと菓子を補充し始める。そのうち血糖値の話もしなくてはな。山吹は巣を漁る動物のようだと思いながらそれを眺めた。
白波百合のノート17
・異常なカリウムの増減がある時には、自覚症状を確認する。
・カリウムは必ず確認する。特に腎臓の疾患がある人は要注意。
・先輩はここにずっと居た訳ではないらしい。
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