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「君たちの言う正常で正しい動作は私にとっては呪いの言葉でしかないんだ!」
僕と彼女は、人生における転倒から立ち上がれず暗く正常からは逸脱した場所で再び出会った。
現職の理学療法士が記す本格リハビリテーション小説。
人にまつわる苦痛の話。四つの要因を話し終わると石峰優璃は言葉を結ぶ。山吹薫は一呼吸をおいて口を開いた。
身体的な苦痛、そして精神的な苦痛について聞きました。そして社会的な苦痛とスピリチュアルな苦痛・・・人は多くの苦痛に悩まされるのですね。
きっと私たちの目の前にいる患者だけではなく、疾患の有無に関わらず苦痛というのは日頃から、私たちと一緒にあるのだろうな。考えが及ばないだけできっと、言葉にして仕舞えばこんなにも多い。
そしてそれらは独立しているわけではなく、互いに影響しあっているのですね。
もちろんだよ。と石峰はこぼれ落ちた雫のような笑みをと一緒に言った。言葉は儚く朝日の中に消えていく。リハビリ室の外が騒がしく救急患者の訪れを知らせるサイレンの音が響いた。いつも通りの朝は近づいている。
終末期による要因であるけれど、身体的な苦痛によって不安や苛立ちといった精神的な苦痛が引き起こされる。そして疾患を患うことで社会的な役割も変化してしまう。
当然、経済的な問題も生じますし、きっと変化した自分と他人の関係性からも社会的な苦痛が生じますね。そしてさらに精神的に苦痛を味わい、精神的な苦痛から身体的な苦痛も増幅してしまう。
よってこう思ってしまうのだ。「このまま生きていてもいいのだろうか?」「果たして自分の人生に意味はあったのだろうか」スピリチュアルな苦痛ということだな。知っていてもわからないことは多かったよ。
思い出をなぞるような口振りに、苛立つと山吹は思う。主任にとっては僕との日々はすでに思い出の中へと足を踏み入れているのが嫌だった。
それでも、僕たちのかかわりで身体的な苦痛が緩和されたのなら、きっと精神的な苦痛も緩和するのではないでしょうか?。
正しくはあるが正解ではないね。身体的な苦痛が緩和されたとしても、精神的な苦痛は残る。思い出と一緒に。
それでもマシになるでしょう?社会的な苦痛も資源の利用や必要な行政のサービスなどの提案でマシになるかもしれない。何よりも変化しながらでも生きようと思えるなら、スピリチュアルな苦痛の部分も、マシになるのかもしれない。
つまりは相手が何に苦痛を最も感じているのか。そこが起因となって苦痛は複雑に絡み合うのかもしれないな。ただ寄り添うだけでも、寄り添ってもらえるだけでも苦痛はずいぶんと楽になるものだよ。
主任もですか。と山吹が尋ねると、あぁ私もだよ。と石峰は答える。主任!と言葉を続けようと口を開くと、リハビリ室の入り口が開いた。
おはよー。今日も朝からえらいねぇ。
ヌハハ。自己研鑽に弛まぬ精神はよし。しかし無理はするなよ。我々の仕事はこれから始まるのだ。
うるさいなぁ。それはそうと優璃。新患さんが来ているみたい。カルテ見ようか。
そうだな。と石峰の表情から笑みが消える。触れようとした手を山吹はそっと下ろした。いつものような朝が始まり、そしていつもとは違う形で終わる。
終わってしまうのだと、確証はなくとも確信していた。
山吹薫の覚書116
・苦痛の要因は互いに影響しあって存在している。
・要因に目を向けつつケアを行うことで、絡まり合った苦痛の要因が解ける。
・主任はいなくなるのだろう。寄り添うだけしかできない僕を残して。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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