バイタルサイン測定の話 その① 〜測定するだけは絶対しない〜

バイタルサイン
白波 百合
白波 百合

という訳で早速何を教えてくれるんスか?

丸イスの上で白波は体を左右に揺らしている。先ほど病棟で痛い目を見てきたとは思えないなと山吹は頬を片手で支えながらため息を吐く。

山吹 薫
山吹 薫

教えるとは言ったものの、最初は独学からとか思わないのか?

白波 百合
白波 百合

また自分が病棟で怒られても良いっすか?そしてそれによって再び先輩も怒られるんすよ?

その言葉を聞いて山吹は口ごもる。『指導者としてそれはどうなの!?』両手を腰に当てた、金色くらいに明るい髪をした女性の看護師の声が頭に浮かぶ。

山吹 薫
山吹 薫

君が怒られるのは構わないけどな。

白波 百合
白波 百合

むー!ヒドイっす!

相変わらずそんな表情をするんすねぇ。と白波は口を三角に尖らせる。その切っ先を幾ら山吹に向かって向けようともその表情は変わらない。そして暫くすると山吹は目を細め観念したように溜息を漏らした。

山吹 薫
山吹 薫

それじゃご希望通りに、まずバイタルサイン測定とは何だろうか?

白波 百合
白波 百合

えぇと。血圧と脈拍、体温とspo2の事っすよね。

山吹 薫
山吹 薫

ふむ。それはそうだが正しくは無い。呼吸状態や意識レベルは見ないで良いのか?そもそも目的と手段を混同している。

じゃぁどういう事っすか?白波は体ごと首を傾げて見せる。だけども自分がこの一般病棟に来て間も無いのは確かであり、それは今まで居た回復期病棟とは求められる事がまるで違う事もまた実感している。

山吹 薫
山吹 薫

バイタルサインは『生命の兆候』と言うだろう。

白波 百合
白波 百合

あっ!学校で聞いたことがあります!

山吹 薫
山吹 薫

真っ先に習うと思うけどね。つまりバイタルサイン測定は、”生命の兆候を測定する”という事で、患者の全身状態の変化を把握するのが目的なんだよ。そしてその手段として君が言った様な血圧測定などが色々あるんだ。

白波 百合
白波 百合

ふぅむ。そう言われるとなんだか難しいっすね。

難しいんだよ。と山吹は机を人差し指で叩く。しっかしやっぱり気難しそうな先輩っすねぇ。と白波は思う。そしてまたやたらと賢いからこそ何がかちょっと腹が立つと白波は思う。

白波 百合
白波 百合

じゃぁ、何を測定するんですか?

山吹 薫
山吹 薫

それは意識レベル、体温、血圧、脈拍、呼吸状態、血中酸素飽和度、そして疾患に合わせた自覚的症状や他覚的症状の所見といったところかな?

白波 百合
白波 百合

”所見”も測定するんすか?なんだかおかしくないっすか?日本語的に。

山吹 薫
山吹 薫

確かにそうだ。しかし量的に当てはめるのが測定だけど、それだけ見て、考えるだけだと肝心な事が診れないんだよ。

白波は恐らく何も分かっていない表情で目を丸めている。山吹はその表情を見て繋がれている柴犬を思い出した。

山吹 薫
山吹 薫

では、先ほど看護師さんに報告した、その血圧が高くなった患者様はどんな人だ?

白波 百合
白波 百合

えぇと、心原性脳梗塞の80歳代の男性です。最近立ち上がりの練習と立位保持の練習を行っています。

山吹 薫
山吹 薫

判断するにはいろいろ足りてはいないけど、まぁ良いや。それでリハビリ

終了時に収縮時血圧が160mmhgとなり、休息を促したんだね。

白波 百合
白波 百合

はい!そしてそれを報告したら怒られました!

そりゃ怒られるだろうね。山吹は顔も上げずにそう言った。まぁ現に怒られて来た訳っすけどね!と白波は頬を膨らませる。

白波 百合
白波 百合

じゃぁ先輩は何て報告するんスか!?。

山吹 薫
山吹 薫

そうだなぁ・・・・実際に見てないから余り言える事は少ないけども、

『軽度から中等度の運動負荷後に収縮時血圧が安静時より30mmhgほど増加したけど息切れや胸部症状、頭蓋内圧亢進症状も無し。四肢の冷感や気分不良、もしくは腹部症状もないだろうね。車椅子座位で安静にしてもらってる。そしてHRも増加はしているだろうけど、リズムは実際に測定していないから分からないね。状況から血中酸素飽和度は正常でしょうといった感じ。今の話からではこれくらいしか分からないから、

お手本になるかも分からないけどね。

山吹は一気に捲し立てる。その間、白波は頭をグルグルとその場で回している。情報量が矢鱈と多くて目が回りそうっす!と思いつつここまで求められるんすか・・・と肩も落とした。

白波 百合
白波 百合

そりゃそこまで出来たら良いっすけど!自分にはまだ難しいっすよ・・・。

山吹 薫
山吹 薫

いちいちこんな風に全部報告しなくても良いけれど、最初はしっかりと所見を見て報告をしないとまた怒られるだろうな。怒られるだけで済めば良いが、患者様の重大な初見を見逃す事もまた怖い。

白波 百合
白波 百合

確かに・・・それは嫌っすね。どんな人でも自分じゃ気がつけない事もまた沢山あるんすから・・・

白波は眉を潜める。そしてその言葉の一端から去年自分に起こった事もまた脳裏の奥底で鮮やかな色を伴って蘇る。白波は一度首を横に振る。

白波 百合
白波 百合

じゃっじゃぁ!そんな風にどうやったら出来るようになるんすか?。

山吹 薫
山吹 薫

努力。

山吹は再び文献に目を落としながらあっけらかんとそ答える。答えな様で答えになっていないっすと白波は両肩をがっくりと落とした。

山吹 薫
山吹 薫

と言いたいところだけど折角、話を聞いてくれる訳だから知っている限りで教えるよ。それにまた僕が怒られるのは嫌だしね。

白波は頭を上げてコクコクと頭を何度か頷かせる。その姿を眺めながら山吹はその背中には振られる尻尾が見える気がして、やはり犬の様に見えるなと心の中で笑みを作る。しかしそれは決して表情には表さないし、その必要も無いと思う。

山吹 薫
山吹 薫

まずは血圧測定からにしようか。

白波 百合
白波 百合

はい!

~白波百合のノート①~

・バイタルサイン測定はただ測定するものじゃない。

・意識レベル、体温、血圧、脈拍、血中酸素飽和度、呼吸状態、自覚症状、他覚症状などを疾患に合わせて沢山観なければならない。

・先輩はちょっと嫌味っぽい。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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