勉強会の話 その②  〜伝わる勉強会にするための方法〜

勉強会

誰もいなくなった病院の玄関は、普段の色よりセピア色に近付くような気がすると白波百合はそう思う。そして対面の巨大な岩石を思わせるような訪問リハビリさんの岩水静を座ったままに見上げた。

白波 百合
白波 百合

なるほど。やっぱりテーマや目的な重要っすね!何も考えずにスライドを作ってたら膨大になったっす・・・

岩水 静
岩水 静

それはそうだろうな。そして此処からは持論だが、お嬢さんはその勉強会で言いたい事を全て言えないと考えたほうが良い。時間は限られているからな。だから参加者がその1割でも本当に伝えたい事でも覚えて帰ってもらったら良い。それくらいに考えていた方が勉強会自体の纏まりも良い。

白波 百合
白波 百合

ふーむ。確かに情報量が多いと頭がパンクしそうになるっすけど・・・やっぱり寂しいものがあるっすね・・・

岩水 静
岩水 静

そのためにスライドやレジュメがあるのだよ。それを持ち帰った時、もしくは要点をメモして持ち帰って見直した時に、あぁそうだった!と思い出せるように要点を纏めて、それに付随する情報を説明する。ある意味証明問題みたいなものだよ。

白波 百合
白波 百合

それは学生時代に十分に苦手だったっす・・・でもその勉強会の答えというか、言いたい事を定義するために内容を構成する事も出来るっすね!

そういう事だなと岩水は笑みを浮かべる。その風体とは違い随分と優しい声色をしていると白波は思う。そしてと岩水は続ける。

岩水 静
岩水 静

まぁ俺はスライドの作り方とか配色とかは詳しくはないから、またいつかの機会に調べてみるのも良い。だけども凝った配色や目を引くような多くのイラストよりも、シンプルなデザインの方が言葉と共に伝わりやすいな。そして最初にテーマをみんなに伝える事が大切だと俺は思う。一番最初にこれはこういう勉強会です。と言ってしまえばその視点でその後の説明を聞いてもらえるからな。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね・・・こういう事をしますと言ってもらった方が勉強もしやすいっす!ほうほう・・・とのめり込みやすいっすね!

岩水 静
岩水 静

そのためには勉強会の中でも目次を作る事も良いな。今回の勉強会のテーマはこれです!目的はこうで、そのためにこう言った流れで勉強しますといった事前の説明をしておくとなお良い。それにスライドを作る上でもやり易い事も多い。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。とっても参考になるっす!なら、スライドの中では文章を羅列するよりも要点を区切って並べるのが良いっすよね!図形化してプロセスを並べながら理解に至るプロセスを描くっす!

ふむ。お嬢さんは賢い。と岩水は腕を組む。その視線は自分を見ているようでどこか遠くを見ているようにも思う。

岩水 静
岩水 静

そして付け加えるなら、すべてのスライドを一度で作ろうとはしない事も必要だと俺は思うよ。

白波 百合
白波 百合

え?どういう事っすか?こう順番に作っていく方が良いんじゃないっすか?

岩水 静
岩水 静

これは論文でもそうだが、作っていくうちに内容は微妙に変化する。言いたい事もだけどな。一度最後まで作ったら、もう一度その流れを見直して、順序を変えたり内容を変えたり何度も見直す。一部分変えたら全体をもう一度見直す。この作業は大変だが何事も事前の準備が必要だから注意深く行う。それが自然と発表原稿となり、見直す事で余計な部分が見えて来る。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。確かに準備は必要っすね!ふむふむ。やっぱり何度も見直す事が必要っすね!

岩水 静
岩水 静

そして最後にもう一度今回の勉強会の目的を伝える事でさらに纏まる。なるほどこういう事だったのか!そういう風に思ってもらえれば万歳だ。後は事前に会場の確認とその会場でのリハーサルも行う事も地味に必要だ。院内の勉強会では蔑ろにされ易いが、これは舞台のようなものだ。観客たる後輩も自分の時間を割いている。それを努努忘れてはならないよ。お嬢さんも無駄な緊張はしないで良いからな。

そうっすね。と白波はぎゅっと手を握る。

岩水 静
岩水 静

まぁ纏めると、まずはテーマと目的を明確にする。これはその勉強会が成功はどんなものか?を思い浮かべる事も必要だな。そしてそこに至るプロセスを考える。これはそのままスライドに反映できるな。加えて、発表ではまずはテーマと目的を先に話、そのプロセス、まぁ目次のようなものだな。それを伝えておく。最後に発表が終わったら再びそれを伝える。

白波 百合
白波 百合

それにスライドを作り始めたら何度も順に見直す事!大切なのは時間は限られていて全てを伝える事は出来ないから、大切な、言いたい事の初心を忘れずに要点を纏めるって事っすね!そして後々スライドや抄録を見直して貰った時に思い出せるように付随する情報を口頭で伝えるっす!

岩水 静
岩水 静

いい感じだな。そしてやっぱりスライドを上手くなりたければ、単純は話だが、上手い人の真似をする。そういう風に作っていれば次第に洗練されて来る。しかし無駄にオシャレにする必要はないよ。シンプルなほど何事も格好良いものさ。

そうっすね!と白波は返事をすると岩水はやはりお嬢さんは賢いと腕を組む。その言葉にエヘヘと白波は頭を掻いた。

岩水 静
岩水 静

まぁ最初の勉強会はこんな感じで良いだろうな。もっと学ばなければならないだろうが、それはまぁやっていくうちに上達する。先人たちも沢山居る。俺だってまだ学びの途中だ。

白波 百合
白波 百合

いやぁ沢山教えてもらったす!後は自分で頑張ってみるっすね!おじさんもやっぱりすごいっす!

がっはっはと白波が吹き飛ばされそうなほどの笑い声を岩水は上げた。そして笑い声が止むと岩水はまっすぐと白波の目を見つめる。

岩水 静
岩水 静

なんだかお嬢さんの勉強会の話を聞いていると何だか昔に居た、どうしようもない程不器用な後輩を思い出したよ。何事も初心が大切だと話したが、セラピストにとっての初心とは、それを目指した時では無くて、こうやって学び、経験し、そして自分の言いたい事、伝えたい事が出来た瞬間なのかもしれないな。そしてお嬢さん・・・貴女は今どのようなセラピストになってどのようなリハビリテーションをしたいんだ?

白波 百合
白波 百合

そうっすね・・・自分には不器用っすけど、すっごい先輩が居て正直尊敬もしているっす。先輩達のように重症な患者様をどんどん良くしていくセラピストにも成りたいっす。だけども自分は頑張って良くなっていく患者様がそれ以上に悪くならないように、自身や家族が悲しくならないように、そんな事が出来るセラピストになって、辛い事をあまり経験せずに退院できる。そんなリハビリテーションをしたいっす。まだ・・・上手く言葉には纏まらないっすけど・・・

岩水 静
岩水 静

ふむ。素晴らしき理想論だ。だけども・・・ふむ。良い答えだ。

そういうと岩水は立ち上がって、軽く会釈をする。白波は首を傾げる。

岩水 静
岩水 静

随分と長居をしてしまったね。久しぶりに素敵なセラピストさんに会えたよ。いつか臨床で会える事をたのしみにしているよ。

白波 百合
白波 百合

こちらこそっす!何だかすっきりしたっす!

それは良かったと岩水は右手を上げて病院の玄関を出ている。その後ろ姿に手を振りながら、やっぱり色んな凄い人がいるんすねぇ。そしてみんな努力しているっす!と思いながら白波はその巨大な後ろ姿が消えるまで手を振った。

白波百合のノート 128

・内容はもちろんテーマや目的に沿って作る。だけども時間は限られているから要点を纏めるように意識する。

・全ての言葉は伝えられない事を意識して要点を纏める。何度も見直して発表を構築していく。

・何事も初心が大切。初心に何度も戻る。何度も、何度も・・・・

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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