坪井咲夜の暇な時 その③ 〜何かを患い続ける日常〜

栄養

さて。坪井咲夜はその身をベッドの上に投げ出した。

スマートホンの画面が見えないように伏せて隣に置く。

久しぶりに実家に電話をした。

働き出して初めてではないかと思う。

母とは言葉を交わさなかった。交わせなかった。

その代わりに父から母の話を聞いた。

身の回りの事ならゆっくり出来るようになっているという。

これもまたサルコペニア、いや慢性疾患を患っているからカヘキシアか。

そう思う。

それでも母は食事があまり取れておらず、すぐに寝込んでしまうのだと父はそう話していた。

もしかしたらそれは自分のせいかもしれない。そう考えると関係ないとは思いつつも胸が締め付けられる。

本当に人間は弱い生き物だと思う。

一人では生きられない。

家族が、その周りの人の関わりで普段通りの食事が取れたり取れなかったりして、その身すら危うくする。

母は自分の事をどう思っているのだろうか。倒れた時にしか会いに来なかった娘の事を。

きっと嫌いやろな。

そう思っても幼い頃の記憶に母はいない。それは自分たちに必要な事であったとしても、家事に苦労する父の姿を見て、授業参観の時に一人男親で周りに何かを囁かれている父の姿をみると気持ちは複雑だ。

それでもな・・・

と坪井は働き出して母の気持ちが少しわかったような気がする。

その気持ちがあるから、またどうした良いかわからないのだ。

それでももう自分は医療従事者なのだ。

今度ちゃんと帰って話をせなあかんな。

いつまでも目を背けてはいられないのだから。

人の心は本当に難しい。

それでもそこから目を背けていては何も変わらないのだ。

だからこそ目を背けずに考えようと思う。

母が何を想っていて、自分が何を想っているのかを。

ホンマに難題やな。でもあのチャラい暇人にはちょっとだけ感謝をしてやろう。

坪井はそうとだけ考えて目を閉じた。瞼に透けて部屋の明かりが心地より暗闇を作り出していた。

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