山吹薫のリハビリテーション 〜カルテの中に刻まれる情報〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の想い出

ふむふむ。と山吹薫は電子カルテを覗き込む。

そこには集中治療室で状態が安定した患者が映る。

全身状態が安定して一般病床へと移り、そして自分が担当する患者であった。そして山吹は改めてその患者の情報を見る。

80歳代の男性で発症は朝方であった。

自宅で朝食後に嘔吐し、その後意識を失った。

そして同居する妻が救急要請し、搬送後入院となった。

まずここで一つ発見が早かったのは運が良かったと思う。

もしこれが深夜なら発見は遅れていただろうし、独居ならば最悪の事態になっていたかもしれない。

そして更にカルテを読み進める。

意識を失い呼吸すら難しくなったその人は挿管されて人工呼吸器管理となった。

広範に及ぶ梗塞は呼吸すらも難しくさせる。もちろん言葉を発するどころか、眼を開ける事すらも困難だ。

すぐに rtーPA治療が施されて脳の血流は再開通した。だけども今度は緩やかに進む出血は止まらず、脳は腫れ今度はその治療へと移行した。

戻らない意識の中で青葉さんが全身状態を評価し、徐々に離床を開始しているのが分かる。心源生の梗塞であり不整脈も多発している。

そんな状況下で全身状態をアセスメントし、合併症予防、廃用症候群予防のために離床を進めている。

ただの変な人ではないのだなと、そのカルテを見て山吹は笑みを浮かべる。

そして厳密な全身状態の管理の元に覚醒状態は改善し、肺炎などの合併症を起こす事なく自発呼吸も増えてきている。手足の動きも僅かに出てきている。

呼吸状態の安定とともに抜管し、酸素療法も終了した上で一般病床へと移動となった。

全身状態の管理が行われる集中治療室での離床は、一瞬一瞬で様々な判断をしなければならない。

流石にそこは先輩だなと山吹は思う。変な人ではあるけれど。

だけども右半身の動きは殆ど失われていた。

そこからが今度は自分のリハビリテーションである。

よし。と山吹は大きく伸びをして気合を入れる。

そして、カルテはただの診療の記録ではなく、人の人生の記録だなと思う。そこには人が生きようとする全ての体の働きが記されている。

もちろん心の動きもだ。

さて、この人に僕は何が出来るのだろうか。

もはや随分と聞きなれたその言葉を小さく口に出してみる。

随分と影響されるものだなと、小さく成人しているかも怪しいような見た目の主任の姿を思い浮かべて、山吹は隣に置いた文献を広げる。

しかし随分と長い間いろいろ教えて貰ったから、今度お礼でもしないとな。そんな事を考えた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

tanakanの他の作品はこちらから

tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika|note
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そん...

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