山吹薫のリハビリテーション その②  〜離床が進んだその先に〜【山吹薫の昔の話】

山吹リハ

よし。と山吹薫は病棟で離床する患者様を見てそう吐息を漏らす。

先日受け持った患者様は無事に合併症を起こす事もなく離床は進み、リクライニング型車椅子から標準型の車椅子へと移行できそうな程だ。

それほど首と体の筋肉は賦活されてきて、端坐位も安定してきた。

しかし右の手足にはまだ十分に力は入っていない。

それでも目を覚ましている時間は増えてきて、それでいて僅かに言葉も出てきた。

それを見たら素直に嬉しいと思う。

その気持ちの出所は分からない。それはセラピストとして患者様の改善を見れたからかもしれないが、どこか違うような気がする。

それでも嬉しい気持ちはそれはそれで嬉しい。

自分の判断が合っているのかそうでないのかは、患者様を見ていれば分かると思う。

その過程がどうであれ結果が伴っていれば、それはそれで良いような気がする。

だけどもそれで良かったのは分からない。

一言主任によくやったと言ってもらえればそれで済むかもしれないのだけれども、そんな言葉を主任が言うはずもないという事も分かっている。

主任は先日から休暇を取っている。

それはひどく自分のペースや頭の働きを鈍らせている事に山吹は気が付く。

全くこんな時にとため息を吐きながら、もしこのまま主任が居なくなってしまったら、そんな考えを頭から振り払う。

とにかく患者様は合併症もなく離床は進んでいるのだ。

今度はその先に進めなければいけない。

そしたらきっと自分もまたその先に進める気がする。

その先・・・

と言葉にして見て山吹は首を傾げる。

その先はまた主任に教えてもらわないとな。

そう思いつつ山吹は酷く主任の声を聞きたい。

再び脳裏に浮かぶその考えに一度首を振って応えてみた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。発売日にはAmazonの売れ筋ランキングで99位となった。 理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。

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