さてと、山吹薫は内海青葉と白波百合と距離を取ったままに腕を組む。もちろん互いに向き合ってはいない。今の自分はなんだかそれで気が楽だと思った。
さて話の続きだねー。まずは今回の巷に広がる話題になっている感染症は新型コロナウイルスと言われるよね？なら旧型・・・とか他にもウイルスがあるって事だね。
えぇ。そもそもコロナウイルスは風邪の起因となるウイルスでもありますからね。そして一般に10－15％の風邪はコロナウイルスと聞いていました。最初に発見されたのは1960年代と言われてますね。当然その時にはこのコロナウイルスも新型であった訳ですね。
そして2002年に話題になった、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、SARAーCoV、SARSという名でニュースで見た覚えがあるね。これは今ではコウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症感染の引き金になったと考えられているね。そして致命率は 9.6％と非常に高いんだよね。例えば1クラス４０人の学級があったとして、そのうちの４人が死亡する。だから残りの３６人が大丈夫という訳でもなくて重症化して後遺症を残す事もある。そういう事だね。そして注目したいのはその時も一人で複数人に感染を広げてしまう当時スーパースプレッダーが見られた事。今で言う所のクラスターって事だね。大切な事はその人が悪いのではないって事。それだけは強く言っておくね。
今までも沢山あったんすね。でもまだ続いているという事もまた考えられるかもしれないっす。
ふむ。と白波はメモを取っている。世間がこんな状態になって、対面せずとも仕事が出来る世の中になったからといって自分達にはそれが出来ない。対策をいくら練ろうとも、辛いかもな。と山吹は白波を見る。
そして記憶に新しいのは中東呼吸器症候群コロナウイルス。MERS~CoVだね。これは2012年位サウジアラビアで発見されて余りテレビでは見なかったかもしれないね。元々ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスだったらしいんだけど、ヒトに感染すると重症感染を引き起こすと考えられているんだよね。
前に主任から聞きましたよ。致命率は34．4％でかなり高い。そしてそれが分かってからサウジアラビアで大規模な疫学調査の結果、０．15％が抗体を保有していたんですよね。つまりは最初は検査されておらず分かっていなかっただけで、大規模な感染が実は起こっていたという事になります。そしてこれもまた重症化するのは基礎疾患を有するヒトという事でしたね。またこの時にもスーパースプレッダーは確認されています。
なるほどっすね・・・他にも感染症は沢山あるっすけどやっぱりどの感染症も怖いっす。でもここまで世の中に広まらなかったら皆がそう思わなかったんじゃないかなって思ったりするっす。同じ感染対策の方法でも病院で研修や練習を重ねてやるものと、そうでないものではそもそも意識の違いが出るかもしれないっすから・・・
ふむ。と山吹は確かにそうだとそう思う。だけどもそれをすべてのヒトに要求するのは酷だと思う。だからと言って自分ではこうやって伝える事しか出来ないのが悔しいが。
そしてこれらに関連して、死に至る、もしくは重症化するのが基礎疾患の有無なんだよね。じゃぁ基礎疾患がないから大丈夫っていう訳ではないから、そこは注意だね。あくまで重症化するリスクが高まるっていう事。そして高齢になればなるほど、その基礎疾患は多くなるから必然的に高齢者の重症化リスクも高くなる。
いわゆる心疾患や呼吸器疾患、COPD、糖尿病等という所ですね。しかしこれらはコロナウイルスの罹患以外の原因でも重症化するリスクは当然ありますので、原疾患のコントロールは当然必要となります。
そうっすね。元々の疾患の増悪、もしくは感染に伴ってという事もまたあるっすもんね。それにCOPDの方は特に肺が既に障害されている事もあるっすから、別の起因の肺炎でも重症化する事が多いっす。
疾患だけでは無くて、その恐怖や不安感も感染する。昔映画で見たような光景で記憶の片隅にあるその現実が今目の前に広まったのだなと山吹は思う。
そして今話した重症急性呼吸器症候群コロナウイルスと中東呼吸器症候群コロナウイルスは、今回話題になっている新型コロナとはまた違うという事を念頭に置いておいて、日本ではその二つのコロナウイルスが見つかった場合、感染症法で二類感染症に分類されているんだね。という事はどういう事？
感染された方は感染症指定医療機関への入院措置が取られ、陰圧管理された部屋で治療を受ける事になって、陰圧室とは読んで字のごとく部屋自体が陰圧になる特殊な部屋でウイルスを間違っても外に出さないようにするものです。同時に疫学調査によって感染経路や接触者が特定される。という事ですが、もちろんそれらの機関には技術や経験に長けた感染対策のプロフェッショナルもいる訳という事もまた必要な要素です。
なるほど・・・機材も人員も十分な場所で本来は管理されて、その原因追求と治療がされる・・・でもそれって・・・
そうだな。例えば一つの病棟、40床だと仮定してそれだけ陰圧室がある病院はあるかもしれないだろうが多くは無いという事だ。だけどもいかなる病院だろうとプロの医療従事者であるから、十分に適切な感染対策を講じた上で介入を行うから安心してもその点は大丈夫だよ。普段も一緒に練習しているだろう。
そうっすね。と白波は両手をギュッと握る。彼女の中にもいろんな不安があるのだろうと思う。守るべきものは誰しも自分だけでは無いのだから。
うん。新型コロナウイルス以外にも以前も新しいコロナウイルスが見つかっていて、その都度時間は掛かるけど対策されているという事をまずは知らないとね。決して、どこか宇宙から来た未知の生命体って訳でもないし、今までの歴史でも乗り越えてきたんだから。
まぁ僕にとっては内海さんが奇妙に体を歪めているのが未知の生命体のようですよ。
え？っと内海は体を存分に捻り奇妙な角度で山吹に答える。それをくすくすと白波は閉じられた口の中で笑みを浮かべている。笑うのまでは制限してはなら無いな。とそんな事を山吹は考えた。
山吹薫の覚え書48
・今までにも名前や報道の形を変えて当時は新型と呼ばれるコロナウイルスが見つかっている。そしてそれぞれに時間は掛かるが対策はされている。
・もちろん全ての医療機関でそれぞれに十分に感染対策はされている。しかし全ての場所で十分な機材があるという訳でも無い。
・内海青葉の動きは目障りだけど偶には役に立つ。
※このお話の登場人物は皆フィクションです。現在公開されている新型コロナウイルスの情報（厚生労働省HPや診療の手引き）より抜粋しています。それをご了承の上ご覧くださればと思います。
【～目次～】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ！をやってみた件について】
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