さてと。坪井咲夜は沢尻悠と向かい合う。一見というか何回見てもチャラいだけの人類に思えるが、やっぱ勉強はしてるんやな。という事は認めざるを得ない。
そんで、そもそも低栄養ってどんな事なん?
そうだねー。栄養摂取と消費のバランスが取れなくなって身体機能が損なわれてしまうって感じかな。どんどん痩せていって、そんでいつしか長い距離が歩けない、ひどい時には立ち上がるのにも難儀するって感じ。
標準体重と比較したりBMIと比較してまぁ痩せすぎ!って数値になってかつ、ちょっと前みたいにハツラツと動けなくなる事とも言えるねー。
ふむふむ。身体機能の低下も伴うものなんやね。ただ痩せてるって訳やないんやね。
元々痩せている人も居るし、遺伝的な体型も有るからねー。でも疲れやすさを感じたりなんかしたら要注意だよー。
確かに上代は食べても食べても太らへんもんなぁ。と坪井は思う。なんとも羨ましいやっちゃなと思う。
それで1日の基礎代謝は大体1500~1600キロカロリーなんて言われているね。これは若者のデータだけど、高齢者になっても大体1300キロカロリー位で大きく基礎代謝が低くなるという訳でも無いんだよー。
それは意外やな。もっともっと低くなると思ってたわ。
でしょー。それに活動係数と言って1日の活動量が上乗せされて1日に必要なカロリーが算出されるんだよ。そして何らかの疾患を患っているとストレス係数と言って主に炎症の値かな?それが上乗せされて1日に必要なカロリーが算出されるんだよー。
そうなると1日に必要なカロリーは結構なもんになるな。
そうなんだよー。基礎代謝は基礎エネルギー消費量として表現される事も多いね。Harris-Benedictの式が有名だけど、計算はややこしいから、体重に25から30を乗じて計算するのも手頃だね。そしてそれに活動係数とストレス係数を乗じていくんだよー。それで1日の全エネルギー消費量になるの
ほうと坪井はルーズリーフにメモを取る。結局これが一番安上がりな気がするねんなーと思う。しかし体重を維持するのにもこんなに沢山カロリーが必要だとは思わなかった。
でもやっぱ沢山食べなあかんというか、多すぎるとも思えへん?
あくまで欧米人や北欧や外国の人の基準だからねー。咲夜ちゃんみたいな小ちゃな子には多すぎるかもねー。
よっしゃウチと同じくらいの身長になるまで頭を叩いたるわ。
怖いなー。だから日本人には体重×20から25が良いって人もいるねー。そんで体重が1kg増やすのにはね。オレらみたいな健康な人で7200キロカロリーの余剰が必要だから病院で体重を増やすのには沢山食べなきゃいけないんだよー。それに疾患を患っているともっともっと必要になるから大変。
普段は考えたことは無いけどそれは途方もない数字だと坪井は思った。普段の生活ならいざ知らず、病院に入院していて食事を全量摂取した上でそれに更にプラスして何かを食べなければならない。
でもやっぱり入院中にそれだけ食べるのはすっごい大変なことやと思うねん。
そのとーり!すっごい大変。しかも元々痩せてて、食べる食事が少ないって人が低栄養状態になって入院する訳だからもっと大変。そして多くの前提が口から食事を取る事なんだよ。だから経鼻チューブからの注入では途方もない量になるし、点滴ではそもそもそれだけの栄養を取れない。もしそんな事になったら体液や血糖、電解質が過剰になりすぎて致死的になる。まぁそんな事をする先生は居ないし安心だけどね。なら運動をせずにカロリーをまずは摂取!だなんて事をしたら今度は廃用症候群に伴う合併症が生じるから要注意!栄養状態改善のために寝たきりになったら元も子もないしね。
そやんなぁ。なら先ずは安全に口から食事を取れる状況を作る事が必要なんやな。
そうなんだよねー。まずその段階に向けてのリハビリが必要。安全に食事を取れる状況を作らなきゃならないの。そして前の食事量を把握して段階的に食事量や形態を上げていくのが必要。咲夜ちゃんが普段より食べている遥かに多い量が目の前に運ばれてきたらうんざりするでしょ?
確かにと坪井は言葉に出さずに頷く。それはきっと最初から普段歩いている距離以上の歩行練習をするのにもきっと同じだとそう思った。
やっぱりこう考えると食べれなくなるって本当に嫌なもんやな。でも年齢を重ねたらある意味自然な事かもしれへんな。
加齢は何も筋肉や骨だけの問題じゃないからねー。それに若い時と同じ食事をいつまでも続けられないし、心因的な要因、社会的な役割の変化。まぁ子供が自立したり配偶者に先立たれたりといった所かな。もちろん若い人でも拒食症だったりと、何らかの理由で食べられなくなってきて、体はどんどん痩せていく。
そしたら病気にも罹りやすくなるしな、そして動けへんくなる。そしたら余計に食べたくも無くなる。悲しい話やな。
だからそれを何とかしようとみんな頑張ってるんだよー。
そやな。と坪井は返事をする。ぼんやりと自分の母の事が頭に浮かぶ。思い出したくない記憶だ。坪井は頭を左右に振った。
そしてそれらはサルコペニアやフレイルと定義されていて、色んな人が研究している。調べれば無料の公開資料も沢山あるからおすすめだよ。分かりやすいしー。
それは調べてみるわ。でもそれだけ問題って事やんな。社会的に。
高齢化社会だからねー。でも最期まで元気でいたいのはみんな一緒だし、オレらも最期まで元気に口から食べて元の生活に戻って頂きたいのは一緒でしょ。
ふむふむ。何にせよその人がどうやって痩せていったかを把握するのが必要やな。そんで先ずはその人に合わせた食事の量を食べて、何よりも必要な栄養を摂取できるためのリハビリをする!
そうそう。栄養状態の改善は食事ももちろんだけど、栄養状態だけを見ていても改善はできないしねー。
ふむ。と坪井は一度頷く。食事と心の問題は年齢に関わらずに大きい。それはきっと自分の母もそうだったのだと思う。それはまだ過去の話ではないのだ。坪井はちょっとだけ目を閉じた。何処かでモニターのアラームが鳴る。そんな音が聞こえた。
坪井咲夜のルーズリーフ 2
・基礎エネルギー量に対して活動量や疾患によるストレスを合わせて必要なエネルギーを算出する。しかしそれは口から食べる事を想定されている事もあり、先ずは口から食べる事を考えなければならない。
・その人がなぜ痩せていったのかを考える。栄養状態の改善のためには栄養状態だけを見ていても難しい。
・母はまだ元気だろうか。
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