誤嚥性肺炎の話 その④ 〜座って食事を取る時は・・・〜 【白波百合とリハビリテーション】

呼吸

白波百合は食堂で食事を目の前にする患者様を見ている。先日受け持った患者様で、なんとか肺炎の増悪を起こさずに車椅子へと離床を行えている。ただしやせ細った体ではその身体を支える事が出来なかったが、なんとか車椅子へと起きる事が出来た。

白波 百合
白波 百合

なんとかこれでひと段落っすね。

進藤 守
進藤 守

どうした?そんな所で腕を組んで。

患者様を見つめる白波の隣に進藤守が音も無く立ち、声をかける。白波はひゃっと体を少しだけ浮かせる。

白波 百合
白波 百合

びっくりしたっす!進藤さんお疲れ様っす!

進藤 守
進藤 守

お疲れさん。薫の言ってた患者様だな。とりあえず離床は行えてるみたいだな。

白波 百合
白波 百合

なんとか・・・でも中々食事が取れないっす。

進藤 守
進藤 守

まぁ起き始めだからな。でもこれで不顕性誤嚥は防げたかもしれないな。

ふむ。と腕を組んで進藤はそう話す。そう言えば二人で話すのは初めてかもしれないっす。と白波は思う。

進藤 守
進藤 守

ずっと寝ていて嚥下の力が落ちている。もしくは落ちていなくてもこう顎を引いた姿勢でずっと寝ていると唾液が気管に垂れ込むからな。そして咳が出来なければ静かに誤嚥して肺炎を発症する。それが不顕性誤嚥だよ。

白波 百合
白波 百合

いつも色々教えてくれるっすね!離床の習慣が付いたらなんとか大丈夫っすね。

進藤 守
進藤 守

神経系の疾患に多いけれどそうで無くても見逃せない。サイレントアスピレーショント呼ばれるくらいだからな。ちゃんと咳も出来るかな?

白波 百合
白波 百合

まだちょっと弱いっすけど。何とか一緒に練習したっす!

そうか。と進藤は笑みを浮かべて頷いた。この言語聴覚士は語るのが苦手と言いながら語り出すといつも多弁っすね。と白波もまた笑みを浮かべた。

進藤 守
進藤 守

嚥下コード3って所かな。これからか。

白波 百合
白波 百合

その・・・嚥下コード3って何っすか?

進藤 守
進藤 守

嚥下調整食の統一した指標かな。それまで個々に調整されていたものが2013年くらいに統一されたんだよ。これで施設間の情報共有も楽になるしな。嚥下食ピラミッドだね。調べてみたらすごく整理された分かりやすい図がたくさん出てくるよ。

白波 百合
白波 百合

それならまた調べてみるっすね。でもあまり食感が気に入らないみたいで・・・

進藤 守
進藤 守

味付けもそうだが食感もまた大事だな。硬すぎるのもどうかと思うが、それでも柔らかいものばかりの食事は箸が進まないものだ。だからと言って直ぐに普通の食事となると誤嚥のリスクもあるから悩ましいものだ。

患者様はゆっくりと食事に手を伸ばし、そして止めている。痩せた四肢はゆっくりと震えている。そう白波には思えた。

進藤 守
進藤 守

とにかくムセ込んではいないようで安心したが、まずは食事量をしっかりと増やしたい所だな。

白波 百合
白波 百合

そうっすね・・・リハビリも中々進まないっす・・・なんか自分でもやれることはあるっすか?

進藤 守
進藤 守

そうだな・・・ふむ。語るのは苦手なんだがな。

白波は腕を組んで進藤を見上げる。このセラピストは先輩よりも背が高い。でもやっぱりちょっと似てるっす。と白波は思う。

進藤 守
進藤 守

まず今見ているように実際に食事をしている風景を見るのが大切だな。食事の動作観察といった所か。

白波 百合
白波 百合

確かに普段なら食事の時間にリハビリも休憩時間っすから、見ようとしないとその機会は作れないかもしれないっすね。

進藤 守
進藤 守

別に休憩時間まで仕事をしろとは言わないがな。チラリとでも良いから見るのと見ないとでは凄く差が生まれる。そこで百合ちゃん。あの人の呼吸はどんな感じだい?

白波 百合
白波 百合

えぇと。大分お熱も落ち着いて最初はこう肩で息をしてたっすけど、今は大分落ち着いているっすね。呼吸数も正常範囲っす。

進藤 守
進藤 守

離床して食事を取る時にそれが落ち着いているとやはり安心するな。飲み込む時には当然呼吸は一旦止まる。当然なようにこれは凄く重要な事だ。例えばこう肩を息をして呼吸数が速いままだと、飲み込んでいる途中に呼吸をしてしまう。呼吸をする事は当然悪い事ではない。だけどもそれで嚥下と呼吸のパターンが破綻し誤嚥してしまう事も多い。

実際に肩で息をしつつムセ込む仕草を進藤はやってみせる。ほぉと白波を声を上げた。こうやって先輩とも色々今まで話してきたっすかね。そうとも思う。

進藤 守
進藤 守

だから食事の際の呼吸の練習も必要だ。ベッド上から離床したての時もまた呼吸の方法に気を配る。ゆっくりと平静に、寝ている時と同じように呼吸を行うようにしなければいけない。誤嚥するからね。

白波 百合
白波 百合

確かに目的は変わってくるっすけど、せっかく起き上がってご飯が食べれるのに熱を出したら元も子もないっすからね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。そしてこの時期によく誤嚥もまた起こる。それを繰り返すと車椅子に起きるのも難しくなるから要注意だ。この方は大丈夫だが、座っている姿勢が崩れてしまう人や、座っていてもこう首がグラグラする人なんかはリクライニング型車椅子でこう首が支えられる車椅子に起きると良いよ。

白波 百合
白波 百合

確かに座っている姿勢が不安定だと、やっぱり食事を取るのも辛いっすよね。

進藤 守
進藤 守

だから座っている姿勢が不安定な時は、その練習を行いつつ食事はベッドでという判断も必要だな。

白波はもう一度患者様の座っている姿勢を見る。なんとか座っている姿勢は保ててはいる。

白波 百合
白波 百合

良ければもうちょっと自分ができる事を教えて欲しいっす!

進藤 守
進藤 守

それにもいい加減慣れたからな。まぁ語るのは苦手なんだが・・・

そう言って進藤は腕を組む。それに合わせて白波も腕を組み。ふん。と一度だけ鼻を鳴らした。

白波百合のノート 71

・離床が始まって食事がスタートする段階では誤嚥するリスクも高い。他の人と良く相談する

・座っている姿勢と、どうやって呼吸しているかも見る。呼吸が荒かったり座っている姿勢が崩れていると要注意。

・進藤さんはこうやって先輩と話しているのだろうか

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