誤嚥性肺炎の話 その⑤ 〜栄養を取れる食事の姿勢〜 【白波百合とリハビリテーション】

栄養

白波百合は進藤守と並んで腕を組んで患者様の食事風景を見ている。それでもやはり食事は緩慢と進んでいた。

白波 百合
白波 百合

中々食事が進まないっすね・・・

進藤 守
進藤 守

それでも時間の許す限りご自身のペースで食べてもらおうか。急かしてしまうと食事も進まないし、食事介助を行う際でもその人のペースを意識しないと、口に溜め込み食事は進まない。最悪喉に詰まるからね。

白波 百合
白波 百合

やっぱりその人のペースもあるっすもんね。大切っす。

進藤 守
進藤 守

何事もそうだな。自分のペースは大切だ。

進藤さんはその点大丈夫っすね。と白波はちょっと可笑しくなる。昔からきっとそうなのだろうな。とも思った。

進藤 守
進藤 守

そして食事の姿勢も凄く重要だ。こうやって胸に何かを抱え込むような姿勢。円背に近付くと食事を取る際に当然首を突き出して、気管に入りやすくなるから注意だね。それに胸も膨らみ難くなる。

白波 百合
白波 百合

胸が膨らみにくいって事は当然肺も膨らみにくいって事っすから・・・当然一回の空気の出入りも少なくなって強い咳が難しいっすね!そして人によっては呼吸が荒くなるかもしれないっす。

進藤 守
進藤 守

そうだね。安全にしっかり食事を取るのも良い姿勢からだね。ほら。姿勢が崩れているから一緒に整えておいで。

うっす!と白波は患者様の元へ行く。四肢の痩せた高齢の男性に声をかける。そして姿勢を一緒に整える。男性は白波を見て笑みを浮かべる。

進藤 守
進藤 守

良くできました。そして一緒に車椅子の足を乗せる部分から地面に直接足を着けて頂いたのも良いね。そしたら車椅子の高さにも寄るけれど自然と姿勢も良くなるし、地に足が付かない状態で食事を取るというのもまた食欲が湧かない。

白波 百合
白波 百合

これは前に先輩に教えてもらったっす!もしかしてそれを先輩に教えたのは進藤さんっすか?

進藤 守
進藤 守

随分と昔の話になるがな。そして良い姿勢が出来たらそこからどうやって口に食事を運ぶのか見る必要がある。俺らは普段意識する事はないが食事の入った食器の重さやスプーンの重さ、それは疲労に繋がる事も多い。箸を使うのが難しい時もある。食事の手が止まったら食欲が無い時もあるが、疲労を感じている時も多い。

白波 百合
白波 百合

確かにいざそういう時にならないと感じる事は難しいっすけど、でもやっぱり食べている間に疲れると食事に起きるのも嫌になるっすね。

進藤 守
進藤 守

食器の位置が遠すぎると口までの距離も増えるし、両手を使えないとスプーンを使っても上手く掬えない。細かい事だけれどもそういった疲労が重複すると食事自体が嫌になるからな。重要な事だ。

やっぱり先輩もこうやって進藤さんと一緒にリハビリをしてたんすね。そう思うと不思議と胸の奥の方が仄かに温度を持つのが分かる。

進藤 守
進藤 守

まぁ食事量の低下は低栄養を招くが、直ぐに提供するカロリーを上げるよりも、こうやって食事場面に関わる事で解決できる事も多い

白波 百合
白波 百合

確かに、言語聴覚士さんや看護師さん、介護士さんに任せっきりにせずに、こうやって食事場面に関わる事が重要っすね!

進藤 守
進藤 守

そうしてくれるとありがたいな。それに食事の前に凄く簡単だけど、口をゆすいだり、手を洗ったりする事も大切だね。

白波 百合
白波 百合

あっ!確かに口の中が乾燥していると食事の味も変に感じるっすね!それに汚れた手のままで食事を取りたくは無いっすから・・思えば自分は毎日自然にやってるっすね!

そうだな。と進藤は答える。その視線はどこか遠くを見つめているように白波には見えた。

進藤 守
進藤 守

他にも嚥下体操をやる事も誤嚥のリスクを下げるし、他にも深呼吸や簡単な咳の練習を一緒にやるだけでもぜんぜん違う。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。姿勢の調整と一緒にやるんすね!

進藤 守
進藤 守

そうだな。業務量にもよるが、食堂に集まったみんなでやる事を定着させるのも一つだな。それに姿勢調整というとリハビリの専門家の言葉で難しく感じるけれど、椅子に座りながら肩甲骨をくっつけるように意識して、足の付け根に手のひらを置くだけで姿勢は良くなる。

白波 百合
白波 百合

おっ確かにそうっすね!武田信玄さんみたいに威風堂々っす!

知り合いみたいだなと尋ねる進藤に対して、白波は恥ずかしそうに首をふるふると振る。確かに難しい言葉を使わずにこうやって誰かに説明するのはなんだか難しい気がする。

進藤 守
進藤 守

栄養状態だけを見てその改善を目指す。それも必要だが先ずは今の食事にこうやって関わる事が必要だな。そこにヒントが幾らでも落ちている。

白波 百合
白波 百合

検査データだけ観ていても分からない事っすね。そして意外とリハビリの知識ばかりで解決しようとすると大切な事が見えなくなる気がするっす。

進藤 守
進藤 守

まぁ患者様や利用者様も俺らも同じ人だからな。人としてちゃんと関わらないとダメだ。・・・とまぁこれは受け売りなんだがな。

白波 百合
白波 百合

・・・その先輩の指導者さんっすか?

見上げる白波に進藤は首を左に傾ける。思えば進藤さんも先輩も自分に分かりやすく噛み砕いて教えてくれている。こんなにも色々勉強しているようなのに。

進藤 守
進藤 守

そうだな。もう随分と昔になるけれど。同じ救急科の主任なのに成人しているかも怪しいくらいに幼くて、度々そんな事を言っていたよ。

白波 百合
白波 百合

そのお話も・・・聞きたいっす。

進藤 守
進藤 守

俺は語るのは苦手だからな。また今度にするよ。

そう言って進藤は横目で視線を流した後に再び患者様へ視線を戻す。進藤さんも先輩もその指導者さんの事はなかなか話したがらない。きっと何かあったのだろうか。胸の奥の仄かに灯る明かりが揺れて、その更に奥に影を作った。

白波百合のノート 72

・食事の姿勢に気をつける。肩甲骨をくっつけながら足の付け根に掌を置くと背筋がしっかりとする。

・食事の前にうがいや手洗いをするのも重要。そして食器の位置にも気をつける。

・二人の指導者さんの事をもっと知りたい

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