誤嚥性肺炎の話 その③  〜肺炎を取り巻く社会の変化〜 【白波百合とリハビリテーション】

呼吸

やはり寒くないのは良い。ただ乾燥するのが問題だな。と空調の効いた休憩室で山吹薫は足を組んで腕を杖にしてデスクに寄りかかる。

山吹 薫
山吹 薫

さっきまで話していたのは体位ドレナージと呼吸指導、咳嗽指導と呼吸リハビリテーションの一つだね。しかし最初はこれが本当に重要になる。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。呼吸が苦しいのは本当に辛いっすもん。

山吹 薫
山吹 薫

それに栄養状態も加味するとだね。炎症が続くという事はそれだけ体も消耗する。蓄えられたエネルギーが消費されるから更に痩せていく。

白波 百合
白波 百合

たしかに肺炎が続いていると食事どころじゃないっすもんね

山吹 薫
山吹 薫

だからと言ってすぐに絶食とするのも問題だな。もちろん状態にもよるが、低栄養となる上に脱水も進む。腸管が働かないと免疫機能も低下する。だからと言ってすぐに口から食べるというのも更に誤嚥を招く事もある。

しかし白波くんの機嫌が治って良かったとは素直にそう思う。連携が取れなくなるし、何よりあまりそういう姿は見たくはない。と山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

だから出来るだけ安全に食事が取れるまで経鼻からチューブを通して栄養を摂取することもある。やもえないが腸管の機能を低下させずに点滴よりも多くの栄養が摂取できるからね。

白波 百合
白波 百合

たしかに栄養も取らないといけないっすもんね。だから症状を安定させて早く起きて頂く事が大切なんすね!

山吹 薫
山吹 薫

もちろん重症例ではしょうがない事もあるけれど、早期離床と廃用症候群予防。そして、それらを阻害する合併症や肺炎の治癒を遷延させることは避けなければならないからね。

白波 百合
白波 百合

うっす!それはもちろん重々考えるっす!

しかしこの子は何故今日は横を向いているのだろう。不思議な子だと山吹はため息をつく。それにも随分と慣れた。

山吹 薫
山吹 薫

排痰を行いながら並行して離床を行う。正直離床を進めたほうが、肺も膨らむし腹圧も掛かって痰も出やすい。だけども行いすぎると今度は体が消耗しすぎてしまう。

白波 百合
白波 百合

それはちゃんと本人の疲労感を確かめながら離床を行うっすね!

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。ベッドに腰掛けるだけでも酷く疲れる事も多いからな。その段階で上手くいっていれば徐々に酸素の量も減ってくる。ただしそれは安静時の話だから、運動負荷でどう変化するかは僕らが評価しなければならない。

白波 百合
白波 百合

それを看護師さんや主治医と情報を共有しながらリハビリを進めるんすね!

今回はこの子のリハビリを上手く行かせてあげたい。もちろん患者さまのためにもと山吹は考える。

山吹 薫
山吹 薫

そして離床して食事がスタートする時には注意しなければならない。これに関してはまず患者様の離床が進んでからだな。

白波 百合
白波 百合

うっす!まずは安静臥位からリハビリ中での離床しながら廃用症候群予防と合併症予防を行うっす!

山吹 薫
山吹 薫

当然だけど僕らの使命はそこにあるのかもしれないと僕は思うよ。

しかし、誤嚥性肺炎もまた最近ではよく聞くようになったな。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。テレビの番組でもよく見るっすもん。

廃用症候群という診断名では一般病床から直接退院するケースは多い。それは制度の問題であるけれどそれでも、ある意味難渋する疾患だと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

市中肺炎の中心は感染症であって、入院してから48時間以降に発症する院内肺炎の中心は誤嚥性肺炎が多い。それはもう昔の話になりつつあるかもな。

白波 百合
白波 百合

確かに、緊急入院の人でも誤嚥性肺炎の人も多いっすもんね。高齢化社会って事なんすかね。

山吹 薫
山吹 薫

そうかもな。そしてそれに比例してサルコペニアやフレイルも有名になったから社会的に問題だという事だね。低栄養と誤嚥性肺炎の関連は強いと僕は思うよ。

白波君が患者様のために何を考えているか。その思いは強く危ういものだと感じていた。だけどそれは自分に不足している物だとも山吹は考える。

山吹 薫
山吹 薫

そして医療・介護関連肺炎というのも新しい概念として広まっているね。

白波 百合
白波 百合

それは初耳っすね。でもなんか引っかかる名称っすね・・・

山吹 薫
山吹 薫

まぁ誤解のないように言うが、これは医療や介護に関連するだけであって関わるスタッフが問題という訳ではない。高齢者の終末を迎える場所に施設が増えたからね。そこでも当然加齢は進む。そして同時に誤嚥性肺炎のリスクもまた増える。

白波 百合
白波 百合

確かにそれは難しいっすもんね。全ての人が言語聴覚士の様にスペシャリストには成れないっすもん。もちろん自分らもっすけど

多分自分は周りの人の様に他人に興味がなのかもしれない。と山吹は思う。それはきっと自分だけの事を考えていた結果なのだろうとも思う。だから白波君にまた学ぶ事も多い。

山吹 薫
山吹 薫

だからこそ簡単でもいいから皆んなが知識と技術を持つ事も必要だと考えるよ。特にリハビリテーションは特別な器具も用いない事も多いし看護や介護と共通する部分も多い。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね!皆んなで患者様や利用者様をどうするか。それを考えていければ素敵っすよね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。それと白波君・・・

山吹はもう一度しっかりと白波の顔を見る。その顔は僅かに上気している様だ。顔面も紅潮している。白波は体を硬くしてまっすぐと山吹を見返している。

山吹 薫
山吹 薫

体調が悪いならすぐに言う様に。この時期はインフルエンザもまた無視できない。重大な市中肺炎の一つだ。

白波 百合
白波 百合

・・・はいはい。そうっすね。手洗いうがいを気をつけるっすー

不思議と白波は眉を吊り上げて口を尖らせる。優しくしたつもりであったが。ふむ。と山吹は腕を組む。本当に人を育てるのは難しい。不思議そうに首を傾げる山吹を白波は目を細めながら唯々見つめていた。

白波百合のノート 70

・肺炎が遷延すると当然体も痩せてくる負の連鎖に陥る。呼吸リハビリテーションをしっかりと行いつつ早期離床っす!

・低栄養と誤嚥性肺炎の関連も深いっすから。入院前の評価も必要っす。

・先輩はどうもこう・・・まぁいいっす。

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