白波百合のリハビリテーション その① 〜情報収集と考える事〜

百合リハ

さてと。と白波は休憩室を出て病棟へと向かう。

閑散とした病棟は静かでどうやら今夜は落ち着いているようだ。

そして電子カルテにログインし患者様の情報を拾う。

今日は何だかすぐに帰りたくなかった。

もちろん先輩から教わった事をすぐに実践したいとも思ったし、何より祖母の事が頭から離れなくなかった。

今回受け持たせてもらった患者様は独居である。

それも90歳を超える高齢の方だ。どうやら認知症では無いと思うのだけど、何度も転倒を繰り返しているようだった。

疾患は腰椎圧迫骨折。冷蔵庫のドアを開けようとして後ろに倒れたらしい。

そしてしばらくその場所で倒れていた。

たまたま訪れた近所の人が助けを呼んだとの事だ。

倒れている間、痛くて動けなかったんすね。

そう思うと胸の奥がギュッとなる。その間何を考えていたかなんてとても想像は出来ないと思う。

そして今日病室に挨拶に行くと酷く痩せていた。

手足は折れそうなほど細い。だけども目はしっかりと白波を見てよろしくと声を掛けてくれた。

胸が上気するのを感じた。そして何がなんでも家に帰してあげたいと思った。きっと家で生活出来るか否かでは無く、その家で最期まで生活をしたい。

思い出はその人の中にしかないのだと思う。

しかし、独居で高齢で頻回の転倒歴。それだけ聞いてしまうと自宅での生活を続ける事で再び転倒してしまう事も考えられる。

それに最初に見つけてくれたのが近所の人である事も気にかかる。

家族は・・・やはり遠方に住んでいる。そして介護保険は申請しているようであるが、ケアマネージャーさんの情報によると家に誰も入れたくないらしい。

さらに祖母の姿が脳裏に浮かぶ。

その気持ちはわかる。他人には頼りたくないし、家族の思い出が漂う家に知らない人を招きたくない。

他にもいろんな感情があったと思う。だけども・・

どうするっすかねぇ・・・と白波は腕を組む。

コルセットを採型したら離床できるとの事だけど、自宅で安全に生活をできるように頑張らなきゃっすね。

やる事はきっと変わらない。だけども考える事は変化する。

もし家に帰れなかったらそんな事も考える。予後予測は複数行わなければならない事も学んだ。

疼痛が落ち着けば主治医は退院の指示を出すだろう。

入院はいつまでも出来ないし、病院にはいつまでも入院できる訳でもない。

それに・・・と白波は思う

病院はいつまでもいる場所でもないっすからね!

白波百合は大きく伸びをする。明日からリハビリの開始だ。

そして患者様が家に帰るための支援を始めなければならない。

それに自分一人ではない。患者様も一人ではない。そういう事なのだと思う。

一人きりの病棟は静かだ。何だか先輩の声が聞きたくなった。

まぁ決してそんな事は言えないっすけどね。そうとも思った。

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