始まりの話 ②-3 〜自宅生活が難しくなる時〜

アルブミン

ふむ。と白波は頭の中で整理する。それでもどうやっても患者様の望む生活を提供したい。そう思う。

白波 百合
白波 百合

それで・・・嫌な話なんすけど、先輩の思う家で生活が続けられなくなる事って何すか?

山吹 薫
山吹 薫

要因は様々だし影響する因子も沢山ある。だから僕が警戒する事だけを話すよ。一つは高齢である事だ。そして独居である事。一概にそうとは言えないが、この二つが合わさった時には特に注意している。

白波 百合
白波 百合

一人で生活が難しくなるって事っすか?

山吹 薫
山吹 薫

もちろん100歳に近くなっても元気に生活される方は沢山居る。だけどもそこに疾患が絡んでくると頭を悩ませなければならない。そしてそこには前に話した発症機転や受傷機転が大きく絡んでくる。高齢で独居で何度も転倒して骨折した場合。それは生活を見直す必要がある。家族が遠方にいる場合には特にだ。

白波 百合
白波 百合

家族もやっぱり心配っすもんね・・・

白波は思い出す。祖母は広い屋敷に一人で住んでいた。祖父はずっと前に亡くなっていてそれでもその屋敷にずっと住んでいた。

山吹 薫
山吹 薫

だからと言って直ぐに施設へと考える必要もない。まぁ施設という言葉だけとるとマイナスのイメージも付き纏う事もあるが、最近は終末までの施設として様々なサービスを提供しているから、一概に間違った判断とも言えないけれどね。

白波 百合
白波 百合

そうっすよね!家族も本人も先ずは安心したいっすもん。不安なまま生活を続けるのは辛いっすからね・・

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。だから介護保険サービスを利用する事で生活は続ける事が可能かどうか。そう考える。訪問リハビリや介護、看護、保険適応外でも様々なサービスがある。それを使って元の生活を続けられるか考える

祖母はそうじゃなかったな。と白波は懐かしく思う。知り合い以外を家に入れるのを頑なに嫌がっていた。その気持ちもまた分かる気がする。思い出がその家にずっと漂っているからだ。それに身を任せていたからだ。

山吹 薫
山吹 薫

しかしそれでも難しい場合もまた多い。若年者と違ってリハビリの進行が円滑にと言えない事も多いからね。それに心疾患等の合併症もまた高齢になればなるほど併発している。例えば既往歴に慢性疾患、、、心不全等がある場合には服薬コントロールを自宅で行う事が必要だ。

白波 百合
白波 百合

薬を飲み忘れないと言うのも単純な様で難しいっすもんね。それに季節の変わり目にそれが重症化する事もあるっすからね。

山吹 薫
山吹 薫

それもまたサービスや家族の関わりで解消できる問題の一つではあるけれど、四六時中という訳には行かないのが現実的な所かもな。

白波 百合
白波 百合

仕事があったり、学校があったり、買い物だってそうっすもんね。人それぞれの生活があって、それを縛る事もまたお互いに辛いものっすもん。

この仕事に就く事を応援してくれたのは祖母だけだったなぁ。と白波は思う。もちろん祖母の姿を見ていたからこの仕事を選んだ訳っすからね。となんだか切なくなった。

山吹 薫
山吹 薫

そして転倒や慢性疾患の合併だけでは無く。食事を取れるかどうかも重要な視点だ。飲み込みに関する力も加齢に伴い落ちる。そして今まで食べていた食事では誤嚥するリスクが高くなる。そして誤嚥のリスクもそうだが、食事が食べられなくなる事もある。いや、どんな好きなものでも沢山食べたく無くなるんだね。君とは無縁だろうが。

白波 百合
白波 百合

その言い草は何っすか!自分だって食べ物が喉を通らない事は・・・まぁたまにはあるっす!

山吹 薫
山吹 薫

まだそれは見た事がないがな。飲み込め無くなる、食べられたくなる、食べたく無くなる。いろんな原因で十分な食事量が取れ無くなってしまうと自宅に帰る。という選択肢を取り辛くなる時も多い

白波 百合
白波 百合

自宅で好きなものを沢山食べる。という事が出来無くなると家に帰っても弱ってしまう事が、容易に想像できてしまうっすからね・・・

小さくなっていく祖母は尋ねる自分を毎日笑顔で迎えてくれた。その数は学校が忙しくなる度に少なくなっていった。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ自宅に帰ったら元気になる人も多いけどな。それが全てでは無い事もまた確かだ。十分に考えなければならない。そして認知症の問題も大きい。

白波 百合
白波 百合

それは・・・そうっすよね。でも!周りの関わりで何とでもなるっす!

山吹 薫
山吹 薫

もちろんサービスや家族の関わり、十分な周りの援助で生活は続けられる。最近では民間や地域での援助もまた多いからね。しかし、最初に話したように高齢や独居、慢性疾患の合併、食事の問題、そして認知症である事、何より本人の意思やそして家族の意向が大きな因子だよ。

白波 百合
白波 百合

それは・・・でも不安なままに生活を続けるというのも・・・難しいっす。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。難しい。だからこそ治療の進捗に合わせて病院で関わるスタッフ、そして退院してから関わるスタッフと十分に話し合う必要がある。それもゆっくりとは出来ない。

白波 百合
白波 百合

だから入院してから退院した後の事も十分に考える事が必要なんすね。

山吹は目を閉じて頷いている。自分の気持ちを知ってか知らずか、沈黙の中から溢れた感情は辺りを漂っている。

山吹 薫
山吹 薫

まぁあくまで一例だけどな。それでも何か参考になったか?

白波 百合
白波 百合

うっす!でもその人に合わせてしっかり考えなきゃならないっすね!

山吹 薫
山吹 薫

医療従事者と患者、その家族、キーパーソン。それは只の言葉であって関わるのは同じ人だよ。

白波 百合
白波 百合

なら先輩も、もうちょっと人間味を出したらどうっすか?

うるさい。と山吹は鼻を鳴らして腕を組む。何か言葉が浮いて見える。多分きっと指導者さんに教わったんすね。と白波は笑みを浮かべる。目の前の患者さんをしっかり見なければとそう思った。

白波百合のノート 58

・自宅で生活できなくなる事は様々な因子が関係する。それでもサービスなど周囲の環境を整える事で続けられる事も沢山ある。

・同じ人として関わる。そして考える。安心できる環境を提供する。

・お婆ちゃんもお空の上で自分の姿を見ているっすかね・・・

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