石峰優璃の本の中 その③  〜ヒトに興味を持つと言う事〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

石峰優璃は古ぼけたパソコンの電源を落として一息つく。

就職してから買ったから随分と古ぼけている。

元々こういうのが苦手だからか、当然の様にすっかり埃を被っている。

これは一度新人君からスマートフォンなるものを教えてもらわなければならないな。そう腕を組んでマグカップを口に近付ける。

インスタントコーヒーの燻んだ香りはすっかり体に馴染んでいる。

あまりコーヒーに味など求めていなかったが、新人君の話を聞いてみるとやはり興味は湧く。

いつになってこの好奇心は抑えられない。特に人の事についてであるけれど。

それが患者様への利益に繋がっているから、悪い事ではないのだろうとも思う。

自分がいつからこんな性格になったのかは分からない。

小さい頃から生きる事だけに必死だったから。

この仕事を始めて、多くの人に触れながらヒトというものに非常に興味が持てた。

体の中だけの事では無く心の動きや感情の揺らぎ。

そして家族というもの。

自分には決して縁の無いものだけど、興味はある。

そういえば新人君には家族は居るのだろうか?

そう考えて石峰は一度大きく首を振る。

そんなのは当たり前だ。何を私は考えているのだ。

彼は私とは違うのだ。

何故こんなに新人君の事を考えているのだろうか不思議に思う。

内海や岩水はここに来た時には新人で無かったから、大して世話を焼く事も無かった。

そして時折新人が配属される時もあったが、育成は部下に任してある。

まぁ大して長続きはしなかったからか、あまり印象には残っていない。

頭は良いが賢い訳ではない。むしろ不器用で仕事は出来るが、真面目すぎて要領は良いとは言えない。

まぁきっと手間が掛かるからこそ、こんなにも気を取られているのだろう。

石峰はそう考えながら、古ぼけたパソコンをポンと叩く。

今度教えてもらわねばなとそう考え、偶にはこの労力を還元してもらわねばとも思った。

ならば何処に連れて行こうか。出不精であるとこういう時に困るな。

石峰はインスタントコーヒーを口に運び、お礼に美味いコーヒーでも奢ってやるか。

そう考えて唇を片方だけ上げ笑みを浮かべた。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

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