脳卒中の話 その⑧ 〜実際にリハビリはどう進むのか〜  【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

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【看取りのセラピスト/ティザーPV第五弾】

岩水静はふむ、と両手を組んだまま盛大に鼻息を漏らす。主任がしばらく休暇を取るからその代わりをせねばと思っていたが、中々どうも上手くはいかないなと首を傾ける。

岩水 静
岩水 静

つまりリハビリとは病棟との連携が必要不可欠であるが、もちろん患者様の出来る事を増やし、目標は入院前の生活である事も忘れてはいけないな!

内海 青葉
内海 青葉

それでも重篤な状態の患者様はそこまで回復できない事もあるけど、社会的なサービスで家に帰れる事も多いんだよねー

山吹 薫
山吹 薫

それは十分に分かっていますが、とにかく身体機能も上げねばですね。

そうだ!と岩水は何やら考え込んでいる山吹薫を、内海青葉の隣で眺める。大分しっかりしてきたのだから、ここまで世話を焼かなくても良いのだがなとも思う。世話を焼かねばいけない程勉強をしていない訳でもない。

岩水 静
岩水 静

ともかく先ずは起き上がる事が出来なければいけない。その際に寝返りの練習をするのだが何も考えずに動作を繰り返してはいけない。多くは動く方の手足の方向へ寝返り起き上がる練習を行う。その際には動かない方の手足を持ち上げなければならない。それは非常に重たいものだから手足の機能の回復と並行して行う事だな!

内海 青葉
内海 青葉

案外立ち上がったり、座っている方が起き上がる事よりも早く出来るようになったりするねー。それだけ重力に打ち勝って動かない手足を持ち上げる事は難しいんだよー。その時に手足の動きに合わせてお腹にぎゅっと力を入れいるように指導したりするね。だけども焦ってはダメだよー。麻痺している間に動かない方の手足の筋肉自体も弱っているからねー

山吹 薫
山吹 薫

それに寝返りだけの練習をずっとする訳にも行きませんからね、車椅子に起きる際に並行して練習を行うようにします。

なんだか矢鱈と主任はこの新人に執心しているような気もする。それだけ見所があるのかと岩水は首を傾げるが、その意図の想像は付かない。

岩水 静
岩水 静

そしてベッドに座る練習も必要だ。車椅子での離床が進んでいると首や体の重力に打ち勝つ筋肉が働き始めている事が多い。しかし動かない足で支える事が出来ないから、やはりその方向に倒れてしまう。よって座っている時にちゃんと動かない足に体重が掛かっているか、そして支えられているかどうかの確認と練習を行う必要が有る。

内海 青葉
内海 青葉

最初から力が入らないから先ずは動く方の手足で座れるように練習して、そこから動かない方の足に体重を掛けるように誘導しても良いかもね。動かそうと思っている限り、動く方の手足だけを使う練習をして、動かない方の手足が動かなくなるなんて事は少ないからね。

山吹 薫
山吹 薫

何事も段階を踏む。という事ですね。

内海はまた変わらずに奇妙に体をゆらゆらとさせている。思えばコイツの意図や考えもまた分からんから、結局の所人の考えなど想像でしかないのだがな。と岩水は思う。

岩水 静
岩水 静

そして次は立ち上がるという事だな。そして立ち上がって手すりなどを使ってでも立っておける練習を行う。それが行えるとトイレに行く事が出来るからな。もちろん順調にいかない時も多いが、その際には装具も十分に利用していく。でなければ尿路感染症のリスクが高まるからな。

内海 青葉
内海 青葉

病棟のマンパワー次第では、前から一人支えて、後ろから下衣の操作をする二人の介助でも行っていった方が良いよねー。それだけで練習になるしねー。

山吹 薫
山吹 薫

そうやって病棟での起きる時間を増やしていく訳ですね。でもガイドラインには早期歩行が推奨されてますよね。それはどうなのでしょうか?

流石によく勉強しているなと岩水は思う。勉強をする事とそれを臨床に生かす事は別物だ。テストを受けるように勉強していても中々長続きしない。その点こうやって話すという機会は良いのかもしれないな。と岩水は思う。

岩水 静
岩水 静

まぁあくまで私見では有るが、もちろん早期に歩行を行い歩行能力の低下を防ぐのも理由だと思う。しかし他にも早期の離床を助けて合併症を予防し、歩く練習自体で例えば寝返りや起き上がりといった普段の動きが賦活される事も多いと思うな。

内海 青葉
内海 青葉

足を踏み出す動きは寝返りの足を挙げる動き出し、体を支える動きはそのまま座っていたり立ち上がったままでいる動作に繋がるからねー。何事も目的が大切。何も考えずに歩く練習だけをするのダメー。

山吹 薫
山吹 薫

確かにガイドラインに載るほどの理由が有る訳ですし、患者様の状態や背景によって選択する手段は違いますもんね。

その通りだ!と岩水は返事をし、その声量に押されて山吹は目を閉じている。知識だけではなく体もまた鍛えねばならんなと広い眉間にシワを寄せた。

岩水 静
岩水 静

他にも回復を助ける手技も多くある。電気刺激も併用する事で筋肉が萎縮したり、動くという感覚を取り戻すのが早まる事もある。それらもまた日常生活が目標となる訳だから、あくまで基本的な進め方を体得してからの話だと思うがな。

内海 青葉
内海 青葉

腹腔内圧理論やコアトレーニングが叫ばれた辺りから、体幹の重要性は叫ばれているけど、それだけでもダメだもんねー。いくら体幹がしっかりしていても、立っている時に体を支える足が細かったり、装具を使っていないと立てないもんー

山吹 薫
山吹 薫

例えば木の幹がいくら太くても、その根っこが細ければすぐに倒れてしまうという事でしょうか。

内海 青葉
内海 青葉

いい例えじゃんー!主任ちゃんにそう指導されてるのー?

そうですよ。と山吹はつまらなそうに息を吐く。その意図は分からんが何だか頼もしくはなっている。まだまだ甘いが、と岩水は思う。

岩水 静
岩水 静

ともかく専門的に見える我々のやる事は案外単純なものだ。出来ない事を出来るようにする。それを如何に安全に、効率的に、医学的に根拠に従い行えるかがプロであるという事だな。

内海 青葉
内海 青葉

なんか今日は矢鱈と饒舌だねー。何かあったの?

岩水 静
岩水 静

まぁ主の居ないに城を守るのは我々の役目だろう。

山吹 薫
山吹 薫

どこに城が有るんですか、城が。

生意気なと岩水は山吹の頭をがっしりと掴む。それでもまぁ少し、主任に依存している所は不安であるがなと岩水は、巨大な掌に包まれて呻き声を上げる山吹を見てそう思った。

山吹薫の覚え書 39

・リハビリは段階的に進めていく。そして日常生活の中で動きを増やす為に歩行練習を進める事もする。

・様々な方法があるが、先ずは基本的な事を行える事が前提。何事も基礎。

・主任の笑い声が聞こえない。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そんな...

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