免疫の話 その②  〜体を守る免疫の働きについて〜 【山吹薫の昔の話】

免疫

しかし何を食べたらこうもデカくなるのだ。と山吹薫は岩水静を見上げながらそう思う。

岩水 静
岩水 静

よし!ならば新人の攻撃が俺の体の防御を突き抜けたとしよう!

山吹 薫
山吹 薫

到底そんな事が出来るとは思えませんが・・・

石峰 優璃
石峰 優璃

確かにそれはそうだが、異物が体内に入ったとして、体はどうやってそれを防ぐと思う?

山吹 薫
山吹 薫

細胞性免疫と液性免疫の話ですね?先ずは気管などに多い樹状細胞、白血球の中の好中球、そしてマクロファージが駆けつけてその異物に対して排除をします。

岩水 静
岩水 静

つまりは歩兵だな!戦闘においては欠いてはならぬ重要な存在だ!そしてマクロファージなんかは戦闘力が強大だからな!抗原を強力に排除する。そして炎症といったものもまた、それらが戦い易くするための環境を作る!体温を上げて士気を上げ、血管の透過性を上げつつ障害された組織の修復を行いながら援軍を呼ぶのだ!

つまりはサイトカインによる炎症反応の事を言っていると、山吹は頭の中を整理する。確かに腫れるという事はそこに種々の細胞が集まっている。という事なのか。岩水の言葉を楽しそうに聞く石峰優璃の横顔を見ながら山吹はそう思った。

石峰 優璃
石峰 優璃

炎症を惹起する成分、サイトカインもそうだが、肥満細胞からもヒスタミンという物質が炎症を促進させる。炎症は体を守ろうとする正常な反応だから一概に悪いものだとは言えないな。

山吹 薫
山吹 薫

確かにそうですね。原因と結果をきちんと整理しないと誤解しそうです。

岩水 静
岩水 静

その通り!そしてナチュラルキラー細胞という常に体の中をパトロールし、ウイルスに感染した細胞を特異的に殺傷する部隊もいる。万全の体制だ。

山吹は体の中を守る種々の岩水を想像して、頭を横に振る。勝てる気は到底しない。そして岩水の話に一々楽しそうにする主任もまた、同じ種類の人間なのだなと目を細める。

岩水 静
岩水 静

しかし戦闘において歩兵だけの力では不足する部分も多い。よって樹状細胞とマクロファージは敵の情報を本部に送る!抗原提示細胞という訳だな。文字通り抗原の情報を提示する役割もある。報連相は何事にも重要なのだ!

山吹 薫
山吹 薫

分かりやすいようで解りにくいですが、リンパ球であるT細胞に情報を送るという訳ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

その情報を受け取って三番目の反応が起こる。いわゆる液性免疫だな。キラーT細胞が樹状細胞から情報を受け取り更に攻撃に加わる。そんな最中でヘルパーT細胞が、その情報をB細胞へと送りつつサイトカインなどを産生し、更に戦い易い環境を整える。

岩水 静
岩水 静

しかし戦いばかりではいけない。制御された戦闘でなければ場は荒れる。よってそれらが過剰にならないように、制御性T細胞がマネージメントを行う。つまりはキラーT細胞を抑制したりその反応自体を終わらせるのだ。

いつしか石峰も岩水の隣に立って腕を組んでいる。さながらヘルパーT細胞とキラーT細胞だと山吹は思った。

岩水 静
岩水 静

そして更に後方へと敵の情報は送られてその解析は進む。そしてB細胞が相手に特異的に反応する抗体を作る。いわゆるミサイルという事だな。

石峰 優璃
石峰 優璃

B細胞は更に活性化して形質細胞へと名を変える。そしてその抗原に対して有効な抗体を産生する細胞になるんだな。そして同じ戦闘を無駄に繰り返さないように記憶細胞と呼ばれる細胞にも形を変える。これは体の中に同様の抗原が現れた時に、速やかに形質細胞へと分化して敵である抗原を叩きのめす!

山吹 薫
山吹 薫

それは確かに合理的ですね。なるほど、体に抗原を入れない、そして細胞がまず反応するある意味自然な反応だから自然免疫、そしてそれを獲得して同じ病を繰り返さない獲得免疫と呼ばれる訳ですね。

ふむふむ。と山吹は考えをまとめる。その姿を見て二人を腕を組んだまま頷いている。これではまるで教官と訓練生だと思った。いや、それは当たっていると山吹は一度ため息をつく。

山吹 薫
山吹 薫

そしてその抗体にもいろいろ種類がありますよね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。まず感染初期ではIgMが反応し、その後時間をかけて体液をめぐるIgGが産生される。特に胎盤を通過するから胎児に対しては重要だ。

岩水 静
岩水 静

IgEは肥満細胞に含まれていて戦闘の準備や即時のアレルギー反応に関係する。IgAは分泌物の中に含まれている。初乳にも含まれているらしいな。そしてIgDは抗体産生を誘導する。これに関してはいろいろあるらしいな。

山吹 薫
山吹 薫

それで予防接種やワクチンの接種・・・となる訳ですね。自然に免疫を獲得するか、人工的に免疫を獲得するという訳ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。方法としてそれを自然に能動的に接種する。まぁ普通の感染という訳だな。そして人工的に弱めた抗原を接種する。また・・・胎児の時に胎盤を通過して母体からIgGは胎児に送られ、初乳の時にIgAが乳児に与えられる。

よくもまぁこんなに覚えているものだと山吹は呆れる。自分も勉強しているけども、道はまだ長そうだとも思う。そして石峰が母を形容する母体・・・という言葉が嫌に無機質に聞こえた。

山吹 薫
山吹 薫

よくもまぁ体の中にはこんな物騒な機構が備わっているものですね。まぁ説明の仕方・・・とも言えませんが。

石峰 優璃
石峰 優璃

なんだなんだ!分かりやすいだろう?

岩水 静
岩水 静

愛すべきものを護るための戦いだ!無下に民たる細胞を傷つける事はならない!しかし・・・そうなる時もあるがな。

山吹 薫
山吹 薫

・・・アレルギーや自己免疫疾患ですね。

その言葉に一度石峰は目を伏せる。長い睫毛は僅かに影を作り、山吹の言葉の余韻はゆっくりとリハビリ室の空気に消えていった。

山吹薫の覚え書 16

・抗原が現れた時、まずは細胞性の免疫機構が働き、その情報を元にT細胞がその補助をする。

・B細胞が抗体を作る。その情報は記憶され次の免疫応答を迅速に行えるようにする。

・主任と岩水さんは恐らく同じタイプの人間だ。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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