上代葉月の帰り道 その② 〜前に進むエネルギーと熱〜

発熱

上代は病院を出て、大きく息を吸った。

まだあの休憩室の空気が肺の中に溜まっているようで何だか気持ちが良くなる。

そしてクロスバイクに跨り、ペダルに乗せた足を踏み出す。

その瞬間、まるで泳ぎ出すような感覚になる。街中を泳ぐ、まさにそんな感じだ。

そして態と遠回りして帰路につく。そうすると楽しかった日が少し長くなるような気がした。

発熱と熱源、それは切っても切れない間であって、その特定は難しい。

それに熱が落ち着いてもその熱源が特定されていなければ繰り返す。

繰り返す度に、体は弱る。熱を下げるのにもエネルギーはいる。

そのエネルギーを蓄えるのにもエネルギーがいる。正に難題だ。

上代は赤く点滅する信号機の前でブレーキをかける。

学生の頃はバスケをずっとしていた。その頃から運動の習慣がまとわりつく。

むしろ動いていない方が体調が悪いくらいだ。

こうしている間にも筋肉は動いて、エネルギーを消費しながら熱を生んでいる。

そう意識すると不思議なものだった。私の体なのに私の体じゃないみたいで。

正直進藤さんの語る肺炎の話はもっと聞きたいと思った。

何だか不思議な人だったなぁと上代は再び思う。

ぼんやりしていて。それでいて賢い。山吹さんよりも後輩に優しく声をかけている。

そして、明確な答えを教えてくれる。指摘だけしておいて、後の答えはぶん投げる。そんな事はしない。

果たして私もそんな先輩になれるのだろうか。ふと不安になる。

気がつけば信号は青く点滅している。上代はペダルに乗せた足を一歩踏み出す。

とにかく前に進まなきゃ。街の中の風を感じながら上代の髪は気持ちよさそうに泳いでいた。

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