束の間の話 ⑪   〜もう一つの出会いと変化〜

総論

白波百合は休憩室への廊下を歩く。先日、感極まってか先輩に言ってしまった言葉が頭の中をぐるぐる周り、頬が上気するのを感じる。やってしまったっす・・・そう思いつつ休憩室の前に山吹薫と誰か見知らぬ女性が立っているのが目に入る。お客様っすかね?と近付こうとすると角の廊下に引っ張り込まれる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ちょっと何してんねん!

白波 百合
白波 百合

何って・・・いつも通り休憩室に・・・。

上代 葉月
上代 葉月

今はダメ!ほらよく見て見て!静かに!

どうしたんすかね。と白波は首を傾げつつ、坪井咲夜と上代葉月と三人でこっそりと覗いてみる。そこに居るのは山吹と同じくらいの背丈で、黒く緩やかに流れる艶やかな髪、そして横顔でも分かるふっくらとした濡れた唇を山吹に向ける女性だった。そのスタイルは同じ日本人とは思えないほどしっかりとしている。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

あかん・・・百合・・・残念ながら完敗や・・・。

上代 葉月
上代 葉月

何て言うかすっごい大人で綺麗な女性だね!・・・どんまい・・・。

白波 百合
白波 百合

もー何がっすかー!

と小声でやりとりしながら、三人はそれでも聞き耳を立てる。

高橋 美奈
高橋 美奈

すっかり立派になっちゃって。見違えたわ。

山吹 薫
山吹 薫

美菜さんこそ相変わらずお変わりないですね。そういえばこの前内海さんも来ていましたよ。

高橋 美奈
高橋 美奈

あの子こそ全く変わってないでしょうね。そうね。お互い随分歳をとっちゃったわね・・・

山吹 薫
山吹 薫

しかし臨床を離れているとは驚きました。貴女ほどの人なら引く手数多でしょうに。

高橋 美奈
高橋 美奈

ふふ。そんな事が言える様になったのね。まぁ今でもこれで良かったのかな?って思っちゃうわ。やっぱり昔の事ばかり思い出しちゃうもの。

僕もですよと答える山吹。そして詳しい内容は聞こえないものの三人にも二人が唯ならぬ関係だと言うことは分かる。どうしよっか?と顔を見合わせる上代と坪井の間で、白波はすくっと立ち上がりツカツカと二人の間に割って入った。それに驚いた二人もまたすぐに後を追う。

白波 百合
白波 百合

初めまして!先輩の後輩の白波百合と申します!宜しくっす!

山吹 薫
山吹 薫

全く何処から出てくるんだ!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いやもうすんません!こればっかりはもう!すぐに連れ返すんでお構いなく・・・

上代 葉月
上代 葉月

大人な会話をしている時にごめんなさい!ほら!行くよ!

山吹 薫
山吹 薫

別にそんな気を使うことも・・・というか何でこんな時に呼出しなんだ!休憩室を使って良いからしっかり挨拶していてくれ。僕の先輩だ。

胸ポケットのPHSに悪態を着きつつ山吹は何処へやら走り去る。まるで威嚇する子猫の様に口を尖らせる白波の正面には、一瞬目を丸くしたものの直ぐに柔らかな笑みを漏らす、まるで美しい魔女の様な高橋美奈が対峙する。これはアカンと坪井はアングリと口を開いたままため息を漏らす。

高橋 美奈
高橋 美奈

ふぅーん。薫ちゃんの後輩ね。ふふ。白波ちゃん・・・貴女、薫ちゃんの事好きなんでしょ?

白波 百合
白波 百合

なな!何を言ってるんすか!

高橋 美奈
高橋 美奈

ふふ。私も薫ちゃんの事が好きだったら・・・どうする?

白波 百合
白波 百合

ななっなー!。

言葉を失いフリーズする白波とキョトンと首を傾げる上代、そして頭を抱える坪井を一頻り眺めると高橋は、そうね・・・と言葉を続ける。

高橋 美奈
高橋 美奈

これでも私は薫ちゃんの先輩なの。作業療法士だけどね。それじゃぁせっかくだし親交を深めるために何処か座れる所でお話ししましょうか!そうね・・・ちょっとある病気の事について聞こうかしら?その事で今日此処に来た訳だしね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いやちょっと待ってや。と言うことはあの救急科の人達の一人なんやろ?

上代 葉月
上代 葉月

むしろ私たちが教えてもらう立場なんじゃ・・・。

白波 百合
白波 百合

いいや!望む所っす!

何でこう色々起きるんやろうか・・・坪井は腕を組んでふん!と鼻を鳴らす白波の姿はがまるで、巨大な美しい魔女に首根っこを掴まれて、持ち上げられている子猫に見えた。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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