上代葉月が進藤守の店を出たのは深夜を回ってからだった。
街灯はまばらに並んでいて不思議と辺りを歩く人も少ない。
葉の落ちた街路樹は街灯を照明にして、その姿をシルエットを夜の闇に映し出している。
カーキ色のコートの中は暖かい。いつもより暖かい夜だと思った。
先ずはその人に関わる事。病院で業務をしていると不思議と忘れてしまう。もちろんその思いはあるけれど時間に追われる事も多い。
ライムに彩られたラム酒の香りが鼻の奥でふわりとその香りを今も漂わせている。
あのお酒の名前は何だっただろうか聞き忘れたなとちょっと悔しい。
だけどもまたあの店に行く口実になるのだろうかと考えると心が浮き立つ。
食事もまた移動する方法以上に、その人の生活を成り立たせる重要な手段だからしっかりとしないといけないと思う。
だけどもやはり生活の変化から食事が取れなくなる事は悲しくはなるし、でもある意味自然な事だから難しい事だとは思う。
だけども、と上代は思う。流れる車のヘッドランプは光の川となって視線の端を流れていった。
上代は両手を広げて一度だけ回ってみる。
頬に当たる風は流れるままに素肌を撫でてどこか後ろの方へ消えていった。
それでも自分の好きなものをいつまでも感じていたいのは誰もが一緒だと思う。
だからこそ私たちが頑張らなければならない。とは思う。
それはとても綺麗事だと思うけど、それでも。
上代は大きく空気を吸い込んだ。すっかりと寒くなった夜の空気は冷たくそして透き通っている。
視線の奥へと並ぶ街灯に沿って街路樹もまたそのシルエットのままに並んでいる。
上代は両手で四角を作りその中にそれを移す。そしてどこまでその道が続くのだろうか。
ライムの香りのままに浮かぶ笑みは、自身のシルエットもまたその景色の中に溶け込んでいった。
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