在宅でのリハビリの話 その② 〜目には見えない隠された本当の原因〜

訪問リハ

なんでまたこんな事にと、巨大な岩水静と対面しつつ山吹薫は頭を抱える。遠く忘れ去ろうとしていた過去が次々と来訪者という形をとなって現れる。

山吹 薫
山吹 薫

それにしてもイキナリですね。そして何だか知らぬ間に、僕の後輩がお世話になったみたいで・・・

白波 百合
白波 百合

本当っすよー!おじさんがまさか先輩の先輩だったなんて!どっかで聞いたお名前だと思ったんすよー!

岩水 静
岩水 静

ふっはっは!まさかオレもあの新人に後輩がいようとは思わなかったのでな!それでお嬢ちゃん。まぁ自己紹介がてら俺の事を話しておこうかな。俺は救急科を辞めて後、とある訪問リハビリの事業所で働いている。ざっと説明すると保険適用下で主に在宅でリハビリを継続される利用者様の所で、生活から維持期のリハビリを行っているのだよ。目標は利用者様の目標とする生活の構築、そしてQOL、まぁ生活、人としての生活の質を向上するのが目的だな。ケアマネージャアーを始め、福祉用具の業者や近隣の様々なサービスの人と繋がるとても興味深いやりがいのある場所だな。

山吹 薫
山吹 薫

昔からそんなことも話していましたね。入院しなければ治す必要はない!でしたっけ?それで訪問リハビリの道に進まれたのですね。

そうとも!と岩水はがっはっはと笑い、なぜか白波百合も同じような声色で笑っている。どうもコイツは僕の厄介な先輩と仲良くなるのが早いと思う。まぁこれも彼女の才能なのだが。

岩水 静
岩水 静

ふむ。それでもちろん入院せずに自宅生活の中で、できる限り自分らしい生活を送る。そのためにあらゆる手段を使うわけなのだけだが、それでもずっとは難しい場面は多い。よく聞くのは転倒からの骨折。といった所だが、話はそう単純ではない。

白波 百合
白波 百合

確かに、一般病床へと緊急入院される方も、もちろん転倒して骨折という方も多いっすけど、他の病気で入院される方も多いっすもんね!

岩水 静
岩水 静

そうなのだ。しっかりと連携が取れていればそうでもないが、それもまた難しいのも現状だ。山吹もかつての救急科でよく経験しただろう?

山吹 薫
山吹 薫

えぇそれはもう。転倒骨折以外に多いのが、新たな疾患の発症や、元々の疾患に急性増悪。そしてそれらに伴い救急搬送される。その結果訪問リハビリが中断し、自宅から病院でのリハビリへと逆戻りする。そんな所ですかね。

ふむふむと白波が頷いている横で岩水もまたテーブルを吹き飛ばしそうなほどの鼻息を出す。しかし改めて見てもこの人は巨大だと山吹も細やかなため息を吐く。

岩水 静
岩水 静

そしてその転倒を例にとって見ても、もちろんうっかりと事故のような例も多い。だけどもそうでない事も多いな。お嬢ちゃんだってコケる事はあるだろう?

白波 百合
白波 百合

そうっすね。慌てていたりする時にうっかりコケる事もあるっす。まぁこの歳で恥ずかしい話でもあるんすけど・・・

岩水 静
岩水 静

だろう?確かに健常な人でもそれはある。ただし高齢者の場合には骨粗鬆症など患っているからそのまま骨折へとつながり、入院となる。しかし普段から転倒リスクが高い人もいるが、生活を続けるうちに転倒のリスクが高まり、転倒するべくして転倒するという事例も多い。 それは何故だと思う?

山吹 薫
山吹 薫

ひとつは加齢ですね。どんなにリハビリを継続してもまずの目標はどれだけ今の身体機能を維持できるか。それでも加齢が進んだら転倒のリスク、つまりはつまづきやふらつきが増えるごとに手すりなど設置し、ライフステージに合わせた生活をその都度再構築する。でもそれだけではない・・・って事ですよね。

おうよ。と岩水は返事をする。昔からこの人の考えている事はわからない。他の先輩にも言える事だけど・・・と山吹は思う。だけどもこの人が在宅に居るのは正直こころ強いと思う。

岩水 静
岩水 静

そのつまづきやふらつきの増加。というのが一つだな。もちろん加齢によっても起きる。しかし我々の加齢と高齢者の加齢とは大きく違うと俺は思うのだよ。一つは最近よく聞くサルコペニア、もしくはロコモーティブシンドローム。他にもフレイルといった所かな?それが起因になっている事も大いにある。

白波 百合
白波 百合

えぇとなんらかの要因によって栄養を十分に摂取できなくなってしまって、それで体の筋力を落としてしまう。その結果活動性も低下して、様々な疾患に罹患しやすくなってしまう。って事っすかね?

岩水 静
岩水 静

ふむ。良いまとめだ。自分の言葉で分かりやすいな。新人の頃の山吹にも聞かせてやりたいほどだ!そしてもしそれらが起因になっていたら、果たして家屋の調整や転倒予防のためだけの介入で良いのだろうか?という話だな。

山吹 薫
山吹 薫

それなら是非聞かせてあげたいものですね!しかしそれは在宅に帰る前の回復期病棟から継続して生じている事も多いと僕もまた思います。そしてその段階で十分介入が行えていないと、在宅での進行や転倒リスクの急激な増加もまた懸念されると思いますよ。

そこなのだよなぁ。と岩水は腕を組む。それにしても内海青葉は教育の場で、高橋美奈は民間で、そしてこの岩水は在宅とみんな救急とは全く別の分野へと自身の道を広げている。一体何を考えているのだろうかと山吹は思う。

岩水 静
岩水 静

転倒一つとっても介入方法は様々だ。そしてそれは単純な筋力の低下や家屋の調整不足、うっかりなんて話ではない。これは俺の持論だが、多くの転倒は起こるべくして起こるのだよ。もし退院前にサルコペニアなどの栄養に関する疾患のリスクが提示してあれば、退院前から介入の検討も行えて再入院のリスクも減らせる。かしそれは全ての人で行われているとも言えないのが難しい所だ。

白波 百合
白波 百合

確かにっすよねぇ。訪問リハの人も入院生活の全てを見れる訳ではないっすから、それに十分な情報はカンファレンスだけでは難しいものっすよねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

そのために僕たちが問題のメインを間違える事なく、時系列に沿った要点をしっかりと伝える必要がある。もちろん内部障害の如何も含めてだな。

岩水 静
岩水 静

ふむ。随分と立派な事を言うようになったじゃないか。しかし在宅でのリハビリのリスクは何も栄養障害だけではない。お嬢ちゃん。そのお話も聞いていくかい?

もちろんっす!と元気良く返事をする白波に岩水は優しく目尻で弧を描く。結局その答えもまたそれぞれの中に有って、聞いても教えてくれないんだろうなぁ。と山吹はもう一度頭を抱えた。

白波百合のノート 130

・訪問リハビリは在宅の中で様々な手段を用いながら患者様の生活の質向上を行う。再発予防も重要な仕事。

・転倒にも原因はある。その原因には栄養障害などの内部障害が関わる事も多い。

・先輩なんだか悩んでいるっす。きっと聞いても教えてくれないっすね・・・

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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