何でまたこんな事を聞いてしまうのだろうか。石峰優璃は目の前に座る二人を眺めながらそうぼんやりと考える。
それで、私がもし、そうだな・・・腹部大動脈瘤を患ったら君は私に何をしてくれる?
主任さんがそんなことになるなんて無いですよー。何言ってんすかー。
進藤、これはそういう質問なんだよ。えぇと、まずは手術適応とならなかった場合ですね。それは主に降圧治療を進めながらのリハビリになります。それに加えてリハビリは身体機能を上げる、というよりも生活指導、主に日常生活の動作の中でどれだけ血圧を目標値の中で動けるかを確認します。安静時で血圧が維持できていても、いざ歩いたり、階段を登ったりと日常生活の中で血圧が異常に高値を示す事もありますからね。
困惑している進藤守の隣で山吹薫は淡々と答える。その感情の奥に何があるのか。それは石峰には分からない。
そうだな。しかし私はいつだって無理をする性分だ。それに日常の中で薬を飲み忘れて病状が進んでしまうかもしれないなぁ。
なるほど・・・という事はもしそうなってしまえば、保存療法からカテーテル治療、もしくはお腹を開いての人工血管置換術、手術療法が選択される訳ですね。
そうなればいずれも術後のリハビリとなります。多くは集中治療室で最初はリハビリが進みますね。腹部大動脈瘤の術後であれば、通常であれば翌日からリハビリが始まり、いずれも翌日からベッドに座る、そして状態に合わせて立ち上がるー歩くと言ったリハビリとなります。手術療法の場合であれば痛みが問題になりますが、創部が引っ張られない様に動作の指導を行い離床を進める形になります。
そうだな。と石峰は山吹を眺めながら再びそう答える。進藤は二人の顔を見比べる。
いずれにしても、手術やカテーテル治療を行った次の日からリハビリと言われても皆さん驚かれます。なので術前にどれだけ術後のオリエンテーションを行えるかが術後のリハビリの進捗に関わります。これは他の手術療法と同じですね。しかし緊急に手術が行われる場合も少なくはありません。其の時は仕方がありませんが、それでも術前のADLや身体機能をどれだけ把握できるかもまた必要な事です。
ふむふむ。確かにそうだな。術前以上の身体負荷をいきなり処方するのは危険だものな。リハビリでがっつり身体機能を上げる!というよりも日常の動きに体をまず慣らす。そんな考え方も必要かもな。
ふむ。とりあえずはそれで良いな。
よくできました。と石峰は笑みを浮かべる。その表情に進藤は緩んだ顔を更に緩ませる。山吹は其の視線からそっと目を伏せた。
山吹薫の覚書78
・特に術後のリハビリは早期から進む。どれだけ術前のADLや身体機能を把握できるかで、過剰な負荷を抑えてリハビリを処方できる。
・術前のオリエンテーションもまた必要。そして術後は身体機能向上よりもまずは、日常生活に体を慣らすという考え方も必要。
・主任は・・・僕に何を言わせたいのだろうか。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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