さてえらい事になったもんやな。と坪井咲夜は自由気ままに休憩室を物色する高橋美奈を視線で追った。白波百合は何だか対等に対峙しているつもりやろねんけど、ハブ対マングースというより、ハブ対ハムスターにしか見えないと坪井はため息を吐く。
ふーん!まだこれ使ってたんだぁ!以外と物持ち良いのね-!ねっお菓子とか無い?小腹が空いちゃってさー!
はいどうぞ!粗茶ではありますが!
ありがとうー!美味しい!お茶入れるのお上手ねー!
へっ?いやぁ。やっぱりわかる人には分かるもんすねぇ・・・先輩ときたら・・・
きっと百合はからかわれているだけ、だなんて夢にも思わへんのやろなと、白波百合を見て坪井は思う。そしてそうだねぇ。とポヤンと返事をする上代葉月はきっと何も考えてへんのやろな・・・ってなんでウチだけが、やきもきすんねん!と坪井は声にならない叫びを上げた。
どうしたのかしら?そうね。お話ししなきゃ。そうねぇ。とある人が今、尿路感染症で入院してるんだけど、その事について教えて欲しいわ。
望む所っす!先輩の一番弟子として!えぇと・・・それは尿路の感染症っす!
あんたな。言葉のまんまやろ・・・まぁでもイメージはそんな感じやな!つまりは尿路とは尿が作られて排泄されるまでの経路の事やから、そこが感染するっていう事や。腎臓、尿管、膀胱、尿道って事やな。
そうだったね。そして男性より女性の方が尿道が短い分女性の方が尿路感染症になりやすいと言われているね。
どや!と腕を組んで何故か誇らしそうに鼻を鳴らす白波に坪井は目を細める。しっかしこの人は何の目的があってここに来たんやろな。とフフフと頰杖を突いて頷く高橋を観察する。
そうね。でも具体的にはどうなのかしら?それらが全部感染する訳?
それはちゃうなぁ。主な尿路感染症としては腎臓の腎盂という部分に起こる感染の腎盂腎炎、そして膀胱が感染する膀胱炎。あとは性病にも関連する尿道炎という所やな。
臨床でよく見るのは腎盂腎炎って感じかなぁ。時には40度近い高熱が出る時もあるらしいから怖いよね。
そうっすよね。もし全身状態が悪かったり、既に高度の廃用症候群を呈していたり、まぁ生命の予備能っすかね。それが低下しているとそこから全身に感染が広がり、本当にひどい時には敗血症やそれに関連して敗血症性のショックを起こす事もあるっすから!
ふむふむと高橋は何かを懐かしかむように、優しい目で白波を見つめている。それは妹の成長を見る姉のようやなと坪井は思う。その視線に敵意などはまるでないのだけど、白波はおそらく気がついていないし、上代はそもそもそんな考えに至っていない。
そうね。確かに腎盂腎炎は尿路感染症の中でも、私は多く見ると思うな。本来なら腎臓から膀胱と尿道を経て排泄されるのよね?ならなぜその腎臓が感染を起こすのかしら?不思議よね?
それは、上行性感染とも呼ばれて。膀胱尿管の逆流によって起こる・・・らしいっす!尿管結石などの影響も強いとされているっすね!
確かに教科書的にはそうやな。でも確かに不思議とは思うのはすべての人に尿管結石が出来たりしてる訳やないやろ?それでも起こるやん!
確かに・・・入院中に新たに腎盂腎炎として高度の発熱をする人もいるよね。それに何だかあまり離床の進んでいない、寝たきりに近い人が起こすような気がする・・・
確か、急性の腎盂腎炎の症状は腰痛、高熱、尿の濁りっすよね・・・でも一般病床での体感っすけど、既に尿が濁っている人が後に高熱を出す事もよく経験するっす!
白波の言葉をきっかけに高橋は立ち上がり左手を腰に手を当て、そのとーり!と右手をまっすぐに白波に向ける。白波の体はぴょんと僅かに跳ねる。
尿路感染症は在宅でも入院中でも容易に起こり、避けなければいけない合併症の一つだと私は考えるわ!そしてそれは患者様の日常生活の自立度ともやはり相関すると思うの!寝たきりの方や一人でトイレに行けない方が起こしやすいと思うのね!もちろん他の原因もまたあるのだけど!そしてここに私達セラピストが関わる事で予防できる事もあるわ!
確かに先輩から教わったっす。急変に至る原因にも尿路感染症があって、その予防のためにも自分たちがトイレ動作をご自身で獲得できるように練習する必要があるって・・・
つまりは尿道の入り口を清潔にするって事やろ?でも例えまだトイレに行ける能力が無い人でも、陰部洗浄したりするやろ?そう簡単になるんかな?
どうだろう・・でも在宅なら!特にお一人で生活しなきゃ行けない人だったら必ずしもそうなのかな?訪問看護を利用しつつ何とか生活している人だったら必ずしもそうとは言えないんじゃない?四六時中一緒に居れる訳じゃないし・・・
ふっふー!と両手に腰を当てて目を輝かせている高橋は、なんかさっき山吹さんと話している時とは別人みたいやなと坪井は思う。白波も気圧されていてか口をあんぐりと開けている。
それには実際にどうやって尿が生成されているかの簡単な理解が必要だわ!何事も解剖学と運動学、そして生理学の先に病態理解もあるの。そういう風に臨床思考過程を進めるのも大切なの!覚えててね
はっ!はいっす!それならまずはどうやって尿が作られるのか?っすね!
確かに、そう考えると私達が出来る事もまたありそうだね!
それはそうと・・・山吹さんの先輩達って皆んなこんなに濃いんか?
私なんかまだ普通よーと手を振りながら答える高橋を見て、まぁあの山吹さんを教えられる人やもんな。そう考えると妙に納得した。
白波百合のノート 118
・尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎が主な感染症。
・特に腎盂腎炎が多くて、腰痛、発熱、尿の濁りが主な症状。
・美奈さんは・・・悪い人じゃなさそうっす。ちょっと怖いけど。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【総集編!!】
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】
【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
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