痛みの話 その② 〜痛みの伝導路とその支配〜

痛み

ホンマはこんなはずやなかったのになー。坪井咲夜は頭を抱える。

一回でもこんな人類に借りを作ったのが運の尽きだった。そう思った。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でもあれやんな!痛みって確か脊髄を通るんやろ?

白波 百合
白波 百合

そうっす!確か国試で習ったような・・・・

山吹 薫
山吹 薫

国試で習った事なら覚えているものだろう?

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁまぁ。国試での勉強と臨床との勉強では違うっしょー。

そんなもんか?と山吹は首を傾げている。チャラい人類がまともなセリフを吐くとなんか腹立つなーと坪井は腕を組む。

山吹 薫
山吹 薫

大まかな道のりは、まずどこかで痛みを感じるとする。その刺激はAδ繊維とC繊維と呼ばれる刺激の伝導路を通る。

白波 百合
白波 百合

懐かしいっす!確かAδ繊維が鋭い痛みを、C繊維が鈍い痛みを伝えるんすね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

せやった!Aδ繊維の方が素早く伝えて、C繊維はやや遅めに伝えるんやったな!でも二つに分かれてるんのも不思議やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ持論だけど優先順位って事なんじゃないかなー!全部が全部すぐに痛みを伝えてたらしんどいっしょ。

まぁな。と山吹は答える。だけどもこの二人がこう気楽に話しているのも坪井は不思議に感じる。絶対に友達にならへんタイプの二人なんやけどなぁと思う。

山吹 薫
山吹 薫

ともかくその二つの繊維は脊髄の後角、まぁ後ろの方だな。そこから脊髄に伝わる。そこから主に脊髄視床路を通って脳の中の視床に伝わる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いきなり痛みを知覚するわけやないんやなぁ。

白波 百合
白波 百合

でも必要以上に痛みを感じるのは嫌っすよねぇ・・・。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねぇー。視床から大脳に伝わって初めて痛みと知覚される。

このプロセスが重要だねー。皮膚や筋肉、痛みの発生部位から脊髄までを一次ニューロン脊髄から視床までを二次ニューロン、そして視床から大脳までを三次ニューロンに区別されるんだよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かにわかりやすいけど、やっぱ複雑やねんなぁ。

坪井は両手を大きく伸ばす!勉強はやはり苦手では無いが好きでは無いような気がする。

山吹 薫
山吹 薫

その経路が大切なんだ。体は痛みを感じてからその疼痛を和らげようという機構が働く。

白波 百合
白波 百合

なんと!頭さんは優しいんすね!頭さんは・・・。

山吹 薫
山吹 薫

何を言いたいんだ?

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁまぁー。痛みを感じると視床下部からセロトニン系のいわゆる脳内麻薬というやつかなー。それが痛みを抑えようと一次ニューロン、脊髄の後角に働きかけるんだよー。それで痛みは和らいで感じる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどなぁー。あれはどうなん!?「痛いの痛いのとんでけー」ってやつ。あれも効くん?

しかし、ここで勉強すると気が楽でええな。とも思う。そしてどちらかというと山吹さんと百合の事が気になって仕方が無い。

山吹 薫
山吹 薫

それは「ゲートコンロール理論」だな。昔から言われている手法だ。痛みより皮膚刺激を与えると、その刺激を入力された脊髄後角は一旦感覚の入力を遮断する。SG細胞だったかな?これが関与して痛みの知覚を和らげ事が出来る。といっても昔々の理論だから最近はどうかはわからんがな。

白波 百合
白波 百合

ほぉーおばあちゃんのおまじないに科学的根拠が!!おばあちゃんカッコイイすね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

まさしく痛いの痛いの飛んでけーってやつやな!

沢尻 悠
沢尻 悠

おっ今のリアクション可愛いじゃーん!

坪井は目を細めて沢尻を見る。例の一件で山吹さんと百合を仲直りさせた時には見直したんやけどなー、ホンマ何考えているかわからん。そう思う。

山吹 薫
山吹 薫

今の話は体性痛と内臓痛なのだけど、厄介なのが神経障害性の痛みだな。これは諸説はあるが神経への直接の損傷による痛みって事かな。

例えば正座をしたとして、足先に痺れが広がるだろう?あんな感じをイメージしてみればよい。

白波 百合
白波 百合

・・・・へ?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

あんた見かけによらずにええトコの子やもんなぁ・・・正座が習慣みたいなもんやしなぁ。

沢尻 悠
沢尻 悠

それに引き換え薫さん全く正座できないもんねー。昔、立ち上がれずに子鹿の様になってた先輩を茶化したら本気で怒られちゃってさー。

山吹 薫
山吹 薫

ご希望とあればいつでも・・・

やめてよー。と沢尻は両手をあげる。しかしこの男は意外に賢い。本音と建前が見事に分離できるタイプなのかと坪井は目を細める。ちょっとだけ親近感を感じる。つまり奴も猫の皮を被っているということだ。

山吹 薫
山吹 薫

特徴はその神経支配領域に痛みや痺れが現れるという事だ。ヘルペス等の神経へと感染し直接障害を与えるもの、もしくは先ほどの正座の話に近いかな、脊髄のアライメント変化や筋緊張の変化で神経の通り道を阻害しても起こる。

白波 百合
白波 百合

正座の話はわかんなかったっすけど、足の痺れとか、手の痺れとかはその前の神経がなんらかの要因で障害・・・って事っすかね?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でも必ずしもそうとは違うんとちゃうん?だってそれが治っても痛みが続く人がいるやん?それはどうなん?

沢尻 悠
沢尻 悠

おー賢~い!そうそう。それが大変なの『慢性痛』って事だね。

白波 百合
白波 百合

咲夜!その手を収めるっす!ちょっと休憩するっす!

こいつ!坪井は沢尻を睨みつける。それにしても此処では普段の自分でいても大丈夫らしい。そう思うとなんだか気が抜ける。あたりにコーヒーの匂いが立ち込めた。そうして坪井咲夜は大きく伸びをした。

白波百合のノート 47

・痛みを感じるには末梢から大脳までの経路がある。そして痛みを抑える経路は視床下部(頭の中央)から末梢に向けて働く。

・神経障害性の痛みは障害された場所から末梢に異常な近くが現れる。でもそれだけでは無いらしい。

・先輩は正座ができないらしい。子鹿の様な先輩はなんだか可愛い。

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