痛みの話 その③ 〜慢性痛・痛みを感じ続けるということ〜

痛み

しっかし此処に来ると可愛い子と出会えるなー!と沢尻悠は笑みを浮かべる。もちろんそれだけが目的ではないけれどと沢尻は考える。

沢尻 悠
沢尻 悠

いよいよ慢性痛の話だね。これはうん。とても厄介だよねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほうほう。それで何が厄介なん?

山吹 薫
山吹 薫

まだ答えが出ていない。というか僕がまだ完全に理解していないというべきか。とにかく定義としては創傷が治癒しているのにも関わらず持続する痛み。期間は3ヶ月から6ヶ月と幅が広いものとされている。

白波 百合
白波 百合

そんなに長く続くんすねぇ。でも怪我が治っても痛みが続くって不思議っすよね。

子犬のように尻尾を振る百合ちゃんは可愛いなーと思いつつ、沢尻は山吹を見る。黒猫のマグカップを口に運ぶ。すっかり古くなったそれを、いつまでも使っている姿をみて沢尻はため息を吐く。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうなんだよねぇ。患者本人にとっても最大の問題だよね。例えば何もしていなくても手先が焼けるように痛んだり、痺れが続いたり、薬によってコントロールはできるけど辛いよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かになー。言うたらずっと正座の後の痺れが続くって事やろ?それはしんどいわー。

白波 百合
白波 百合

自分はわからないっすけど・・・でも大変っすよね・・・。

山吹 薫
山吹 薫

あぁ。幾つか説はある。一つは神経が障害され、それを直そうと神経ペプチド、まぁ普段炎症を直そうとするタンパク質が神経を治そうとする時に痛みが生じる。

白波 百合
白波 百合

炎症症状・・・って訳っすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。またそれについてもいつか話そう。

ふむ。と山吹は黒猫のマグカップを撫でる。正直それを貰ったという事は知っている。だけどいつまでもその事に依存するのはねぇ。と沢尻は思う。

山吹 薫
山吹 薫

他にも神経が修復の過程で瘢痕化し、それが起因となって異常感覚が生じる、またはその痛みが脊髄の後角へと上行し、そしてその痛みがさらに下降し行ったり来たりする事で痛みが装飾され続けるという事も考えられる。

白波 百合
白波 百合

とにかく神経が障害されると痛みや痺れといった異常感覚が続くんすね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。だから例えば頚椎ヘルニアや腰椎のヘルニア、ひょっとしたら唯の座骨神経痛・・・と思っていても長期化すると慢性痛に移行する可能性もあると思うんだー。痛みのコントロールは本当に必要なんだよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほんまやなー。痛みが続いている中でリハビリなんてしたないもん。

そうだな。と山吹は答える。また何かを思い出してる。そう沢尻は思った。付き合いもそろそろ長い。精神的な痛みを慢性化しているのは自分だという事に気がつかない困った先輩だからなぁ。とも思う。

山吹 薫
山吹 薫

それに痛みを覚えてしまうという事もあると思う。痛みが続いているとその痛みを脳が覚える。促通される・・・と言っても良いかな。こうすれば痛かった。からこうすれば痛いになって、こうしなくても痛いと認知の仕方が変容してしまうのかもしれない。

白波 百合
白波 百合

痛みは怖いっすからね。怖い事こそ覚えてしまうっすから。

沢尻 悠
沢尻 悠

幻肢痛ってのもあるくらいだからねー。これも頭の中で覚えている本来あるはずの手や足が無くなってしまって一時的に感覚の経路が混乱するからかもしれないねー

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かに慢性痛は自律神経も障害されるって聞いた事あるねんけど。ずっと痛いねんで?そりゃ体調も崩しやすくなるし気分も滅入るわ・・

山吹 薫
山吹 薫

そういう事だな。そして心理的な要因でさらに痛みは強くなる。

疾病から始まった急性の神経の痛みが、治癒の過程で慢性化し、そしてそれが認知、頭の中で痛みを覚えてしまう事でさらに慢性化する。そして心理的な要因でさらに混沌となる。

難題やー!と坪井は頭を抱える。沢尻は坪井を見る。この子はなんだか自分と同じ匂いを感じる。同族というか、だからこそこの難題に巻き込めると思ったわけだけど、と沢尻は思う。

沢尻 悠
沢尻 悠

もちろん交通外傷やスポーツ外傷で、腕神経叢といった大きな神経に強いダメージを受けるとその後に生じる痛みも強いから・・・特に強い痛みが生じると思う。脊髄損傷もきっとそうだね。感覚が異常に過敏になるアロディニアなんてあるしねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ホンマに痛みって怖いんやな!だからこそコントロールせなあかんのやね!

白波 百合
白波 百合

そうっすね!自分らもしっかりと評価して、患者様の発言や気持ちを汲み取ってみんなで相談して、早期から少しでも楽にするっす!

山吹 薫
山吹 薫

まぁ全てがそうなるとは言えないが、そうだな。そうするべきだ。

山吹は瞳を緩めてそう答える。その言葉からは心の奥が透けているようだと沢尻は思う。過去の事は過去の事だからせめて前向きに向き合っても良いものだと思うけど、こればっかりは自分一人では無理だと沢尻はそうとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

痛みに関しては昔からずっと取り組まれてきている治療の一つだからな。厚生労働省やら難病情報センターといった場所やペインクリニックのホームページにも詳細に書かれているから参考にすると良いよ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。人によって症状も表現も全く違うっすからねー。チェックっす!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でもやっぱ難しいなぁ。やからウチらも前向きに考えなアカンわな!百合も山吹さんもちゃんと前向きに頑張らなな!

白波 百合
白波 百合

自分は常に前向きっす!

山吹 薫
山吹 薫

僕は常に前向きだが?

同時に答える二人を見て、坪井と沢尻は顔を会わせる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

あんたらなぁ・・・・

沢尻 悠
沢尻 悠

いいじゃんいいじゃん!常に前向き。前進あるのみだねー

沢尻は坪井を制してそう両手を広げる。一瞬坪井は怪訝な顔をしたが何か伝わったのか大人しく口を噤む。

薫さんの中で続く慢性化した昔の話を進めなければ行けないけれど、それはまた難題なんだけどね。沢尻は大きく欠伸をする。そして山吹をまっすぐ見つめる百合ちゃんを見た。こっちもこっちで・・・だけどね。

そう沢尻は思い、再び欠伸をして見せた。

白波百合のノート 48

・慢性痛は様々な要因で長期化した痛みであると考える。

・痛みは早期から原因を精査してコントロールを行えるようにする。

・慢性痛はいろんな大きな機関で研究されているからそこも参考に!

なんだか安心っす!

・先輩はなんだか考え込んでいるっす。正座が出来ないのがそんなに・・・

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