窒息の話 その② 〜知らないと見逃す重要な音〜

急変

全くこの不器用鉄面皮は、と坪井咲夜は腰に手を当て山吹薫に呆れるように吐息を漏らす。白波百合の気持ちを知ってか知らずか、だけども前みたいな冷たさは感じへんなとも思う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そんで上気道の閉塞についてやんな。こればっかりは怖いし、臨床でも起きうる事やからしっかり教えてもらわんとなぁ。

山吹 薫
山吹 薫

なんで呆れた表情なんだ?でもまぁ知っておかなければいけない事だ。そうだな。普段呼吸をする時に音は聞こえるか?

上代 葉月
上代 葉月

えっと・・・スーハーって事ですかね?あっ確かに普段呼吸をする時には、呼吸の音は聞こえませんね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。他覚的に過剰に呼吸の音がする。それは異常が生じている事が多い。普段は聞こえない音が聞こえるという事はなんらかの病変のサインだよ。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね。息切れしている時でも他覚的には肩で息をしているのがわかるっすけど、呼吸の音は気が付くほどに鳴ってはいないような気がするっす。

言葉を借りれば他覚的にも百合が過去の事を思い出してるのも分かる。上代葉月が肩にそっと触れているのもそれを知っているからだろう。それに引き換えこの不器用鉄面皮はと坪井は再び思う。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。聴診をしなくても上気道の閉塞時には呼吸の音が聞こえる。それもスーハーといった擬音みたいな静かな音ではない。上気道が閉塞する際には『ぼー!』といった激しい低い音のストライダーという特異的な音がする。息を吸う時に低い音がなる。狭くなった気道を息を吸う際に通る音だ。そして末梢の気管支で聞かれる音だがウィーズという高い音が聞こえる。いわゆるヒューヒューという音だな。これは息を吐く際に聞こえる。ウィーズに関しては聴診で分かる事もまた多い。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。それは重要な所見っすし、それにその音が聞こえる事自体が閉塞の予兆っすからその時点で対応が必要っすね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かに気道が細くなれば息も当然吸いにくくなるし、完全に閉塞していなくても閉塞を進みつつある事でもあるもんなぁ。

上代 葉月
上代 葉月

それでもちゃんと不完全ながらも呼吸できているからまだ安心という事・・・でもないですよね。

百合に過去に起きた事は知っている。それで我を忘れる程に落ち込んでいた事も。そしてここに来るキッカケにもなった事も。それは同じように窒息だった。もちろん原疾患の疾患に伴いだったのだけど。

山吹 薫
山吹 薫

原因はいろいろあるが、気道が閉塞傾向であり呼吸が十分に行われないと、二酸化炭素もまた体に溜まる。そして意識障害を来すと舌根は沈下しさらに閉塞が進む。救急の現場でもそうだがまず気道が開通しているかの所見は挿管の可否にも関わる。そして音以外にも呼吸に関する運動は変化する。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

シーソー呼吸や陥没呼吸と言われる所見やな。普段息を大きく吸うと胸は広がり、横隔膜が広がる事でお腹が膨らんで見えるようになるんやけど、その動きが逆になる。

白波 百合
白波 百合

息を吸うと本来なら胸もお腹も膨らむっす。だけども上気道が閉塞していると空気が肺に入らないっすから、胸郭だけが広がって、肺は膨らまないから肋骨や鎖骨の上の部分がへっ込んで、お腹もまたへっこむっすね。

上代 葉月
上代 葉月

それは当然・・・苦しいね。上気道が狭窄して行って閉塞するかもしれない。そして気がつかなければ窒息する。怖い話だけど在宅でも常に見守れる訳ではないから難しいけど・・・怖いと思う。仕方がないと思う場面はあるけれど・・・ね。

臨床にいる限りは当然合併症のリスクも付きまとう。仕方がないとしか思えない場面がある。だけども、もしこうだったら・・・と考える事は止められへんしな。と坪井は思う。

山吹 薫
山吹 薫

それになんらかの原因により上気道が狭窄していくと、当然息が苦しい訳だから呼吸が速くなり浅くなる。息を吐くのにも努力がいる。そのために脈拍数も上がっていく。そして当然そんな激しい呼吸の中で声を出す事も難しくなる。

白波 百合
白波 百合

という事は、ストレイダーやウィーズの音が聞こえる、陥没呼吸やシーソー呼吸の所見があり、何よりもとっても息苦しそう。見た目でしっかり分かる事が出来るっすね!

上代 葉月
上代 葉月

そうだね!早めに気が付く事が出来たのならどうにか出来るから、でも自分達だけでは難しいけど、すぐに先生や看護師さんに報告しなきゃね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

原因にもよると思うけどな。そういった所見が見られたなら直ぐに伝えんとあかんし、リハビリ中一緒に居れるウチらやから気が付ける事でもあるしな!

そうっすよね。と百合は力強く頷いている。それを見て坪井は何だかホッとする。なんやこの不器用鉄面皮もわかっとるやないかいとちょっと感心した。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ起きてしまう事でもあるし、重篤な症状を招きかつ臨床でも生じる窒息や上気道の狭窄だけど、僕らにだって出来る事はあるし、気が付ける事も多い。

白波 百合
白波 百合

それにはまず知っておく事が重要っすね!あれ?おかしいな?からもしかしてこれは大変な事じゃないか?まで考えが進められたらその後の動き方も全然変わってくるっす!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そうやな。だってそれは臨床だけの話とちゃうやろ?在宅だって十分に起きうる話やしな。

上代 葉月
上代 葉月

だけど、やっぱりそうならないようにするのが大切ですよね。

ふむ。と山吹は頷いている。その視線は隠していても白波にしっかりと向いている。過去と向き合わないといつだってそれは重荷になる。知っててやってんのかは分からへんけど、だからこそ教えている。そんな風にも坪井には見える。

山吹 薫
山吹 薫

何事も予防は必要だな。他の急変に関する予防もそうだけど、考えが纏ったら、まずはこの上気道が閉塞してしまわないように僕らが出来る事を話していこう

白波 百合
白波 百合

うっす!

上代 葉月
上代 葉月

良かったね百合!それに私たちも知っておかなければいけないね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そりゃそうや!そのための教えて薫様!やからな!

だからどういう事だと山吹は眉を潜める。武井玲奈の真似も悪くないなと坪井は笑みを浮かべつつ、僅かに笑みを取り戻しつつある百合を眺める。ほんまにここに来て良かったなぁ。と言葉には出さずにそう白波を眺めた。

白波百合のノート 111

・上気道狭窄や閉塞の所見は呼吸の音で知る!音が聞こえる事自体も異常なサイン!

・他にも息苦しそうで脈も速くなり、心拍数も上がっている。それも要注意!何れにしても早急な対応が必要。

・先輩の話を聞いてたら何だかホッとするっす。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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