一次救命処置の話 その①  〜必要になる時と必要な理由〜

BLS

業務の終わり、白波百合はリハビリ室のドアを開ける。そこには業務を終えたスタッフが疎らに居た。そして桜井玲奈の姿を見つけると白波は右手を挙げた。

白波 百合
白波 百合

お疲れ様っすー!忙しいのに申し訳ないっす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

あら白波さんお一人かしら?私(わたくし)に聞きたい事がだなんて珍しい事ですわね?

文献を揃えつつ桜井はそう答える。白波の後ろを仕切りに気にしているが、白波一人だという事が分かると、桜井は目に見えて肩を落とした。

白波 百合
白波 百合

えぇと今日はBLS(一次救命処置)の復習に付き合って欲しいっす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

またいきなりですわね。それなら薫さ・・・山吹さんに付き合ってもらったらよろしいのではなくって?私よりもずっとお詳しいと思いますわ。

白波 百合
白波 百合

えぇと・・・それは・・・先輩は忙しそうっすから!

この前は自分が落ち込んでいてそれで心配させている。そんな自分の素直な気持ちは胸の奥から出て来ない。嘘ではないけれど、やっぱり気は引けると白波は思う。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

あら。そうですの?別に私としてはとってもよろしいですわ!ちょうど復習しようと思っていた所ですの!病院で働く限りは、といってもどこにいても知っている必要がある事ですものね!

白波 百合
白波 百合

そうっすよね!病院でも自宅でも早期発見したら、その後に命を救うために必要っすもん!でもその機会は多くはないっすから、定期的に復習しないといざという時に動けないっすもんね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

その通りですわね。それなら一緒に復習ですわね!そもそもBLSはBasic Life Supportの略語でして、一次救命処置と言われますわね。心肺停止や呼吸の停止した方へと施す処置の事ですわ。そしてそれは心停止の予防として行う必要があるのですわ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。そうっすよね!心臓が止まってしまう。または止まってしまっているのに近い時間が長くなると、それだけ体に血が流れないっす。血が流れない事は臓器や脳に必要な血液、多くは酸素っすね、それが滞ってしまう。そして種々の臓器へのダメージになってしまうっす!多くは五分で後遺症が残る可能性が高くなり、8分で死に至る可能性が高まるっすけど、早ければ早いほどに越した事は無いっす!

あら?と桜井は目を丸めている。実はもちろん自分でも勉強してきている。だけども学ぶだけでは動けない。そういう事もまた実感している。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そうですわね。そして色んな原因があると思うのですわ。成人で多いのは心筋梗塞などの急性冠症候群や、脳卒中発症時と言われておりますし、小児では多くは無いけれど、窒息や溺れる事、事故なんてのもそうですわね。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。後臨床でも上気道の閉塞や致死的な不整脈が生じる事でも心肺停止に近付くっす。何も心臓が完全に止まってしまわなくても、それに近付く事、心臓に必要な酸素が行かなかったり、心臓が細かく震えて止まれずに、体に必要な酸素を送る事が出来ない事に対しても一次救命処置は必要っす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

かといって体の中の事は見えませんことよ?ともかく意識を失ってしまっているのを見つけたら、直ぐに一次救命処置の手順に沿って動くことが大切だと思いますわ。そもそもそうですわね・・・言葉の理解は大切だと思うのですわ!

そうっすね!と白波は大きく頷く。万が一だとしても知っておくのと知らないのとは大きく違う。それにしても玲奈ちゃんは頼りになるっす!と白波は笑みを浮かべる。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そもそも心停止とは文字通り器質的に心臓が動くのを止める事を言いますの。予期せぬ循環器系の疾患という事ですわね。そして呼吸の停止は窒息や高度の低酸素血症、COPDが高度に増悪してしまったりそういう事で起きますわ。いずれも脳や各種の臓器といった生命活動を維持するのに必要な場所で必要な血液、酸素が送れずにやがては働きを止めてしまいますの。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。災害や事故でも起きてしまう事っす。短時間でもダメージは多大なものになるっす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それは高度の虚血の状態を来すのですわ。例えばそれは救命できたとしても全身にダメージを与えてしまうのですわ。そして全身に炎症が起きてしまったり、その結果浮腫んでしまう。その浮腫みが脳に起きたら、頭蓋骨に囲まれて居ますから逃げ場がないのですわ。それは頭蓋の中で脳が圧迫されてしまう。とても大変な状況も招きますの。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。自分の感覚っすけど、普段元気な人は急に突如動機を自覚して動くのが難しくなるのは循環器系の重大な疾患の発症が多いような気がするっす。そして寝たきりに近い人や長いことCOPDや肺の疾患を患っている人は、高度の呼吸器の障害、呼吸停止という形で搬送されることが多いような気がするっす。

なるほどと桜井は唇に手を当てる。なんだか玲奈ちゃんと勉強するとなんだか燃えてくるっすね!と白波は思う。それは上代葉月や坪井咲夜と勉強するときとは違う。そうとも思う。

白波 百合
白波 百合

そしてやっぱりそれが起きてしまう場所によっても救命率は大きく変わってくると思うっす。例えば病院の中で、十分な機材とスタッフがいる中での心停止は救命される可能性は高いっすけど、自宅や道端、特に誰もいない環境での発症は救命率は下がってしまう気もするっす。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

だからこそ私達以外にも一時救命処置の方法も知る必要があるってことですわね!

白波 百合
白波 百合

きっとそういう事に慣れていたとしても、そういう場面では直ぐに原因究明は難しいかもしれないっす。ゆっくり検査をするって暇はないかもしれないっすから。だからこそ、直ぐに動く必要があるっすね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

もちろん意識消失もそうですが、脈拍が触れなくなる、呼吸に合わせた胸やお腹の動きが無くなる。そういう事が確認されたら、手順に沿って直ぐに一次救命処置をスタートしなければなりませんわね!ならその方法を一緒に復習しますわよ!

白波 百合
白波 百合

もちろんっす!

白波は鼻息を荒くする桜井にそう答える。立場は違えどきっと考えている事も不安に思う事も一緒なのだと白波は思う。葉月や咲夜も遠慮せずに呼べばよかったす。と白波はそんな事を考えた。

白波百合のノート 113

・心停止や呼吸停止の結果、各種の臓器が虚血に陥り生命活動が維持できなくなる。わずかな時間の進行でも脳や臓器に大きなダメージが起こる。

・意識を失う、脈拍が触れなくなる、呼吸が感じられない。そのときには一次救命処置を直ぐに行う!何よりも人を集めるのが必要っす!

・玲奈ちゃんとお勉強すると何だか燃える!負けたくはないっす!

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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