内科で働くセラピストの話 その① 〜今こそ知るべきリスク管理とは〜

リハビリ

病棟の一角にある細やかな休憩スペース。そこに駆け込んできたのは今年、理学療法士として2年目となった白波百合。この病棟に配属となり山吹薫の元で様々なことを学んだ。白波は僅かに震える手元を見つつ一度大きく息を吸った。

山吹 薫
山吹 薫

さてまぁ今度の勉強会のリハーサルという訳だが君と僕しかいないんだから緊張はしなくても良いよ。

白波 百合
白波 百合

別に緊張はして無いっすけど・・・それじゃぁ始めるっすね!。

ふむ。と山吹は白波の僅かに震える手からは視線を逸らして、映し出されるスライドを見る。

白波 百合
白波 百合

それでは発表を始めるっす!タイトルは「今こそ必要なリスク管理~臨床から繋げるこれからの運動処方~」っす!宜しくお願いします!現代では色んな場所で運動処方がされる様になったっす。そしてその処方を受ける人も若者だけでは無く高齢の方も多くなってきたっすから、その時に考えるリスク管理について今回はお話したいっす。

山吹はいつか話した自分の言葉が、白波の言葉になって聞こえている事に何だか不思議な気持ちになる。そしてかつてはそれは自分が学んできた言葉であるのだから余計に不思議な気持ちになった。

白波 百合
白波 百合

臨床でもそうで無いところでも、よく聞くリスク管理という言葉という言葉がまずあるっす。その意味は、色んな解釈はあるっすけど、想定される有害な事象が起こらない様に事前に防止策を検討し、実行に移す事。と言われるっす!運動を処方する上でもちろんメリットは沢山あるっす!しかしその反面、少なくとも人によっては確かにリスクがあるっす!それはおいおい説明するとして、まずはこの基本を念頭に置いてお話を聞いて欲しいと思うっす。

リスク管理。それは転倒リスクの話だけでは無い。それもあって最初に白波に教えたのは基礎の基礎のバイタルサイン測定だった。本当に何も知らなかったな。と山吹は僅かに笑みを漏らす。

白波 百合
白波 百合

私たちが普段のリハビリで考えるリスクというのは大まかにこんな感じだと思うっす。日常生活の中で患者様が、場所によっては利用者様が転倒しないか、転落しないか、もしくは誤って薬を飲んだり、人によっては点滴をしながらしばらく生活を行う必要があるっすから、それが抜けない様に気をつけて病院やその他の場所での生活を行う様に指導するっす。これが誰もが思いつくリハビリ中のリスク管理っすね

それは白波だけでは無い、多くのセラピストがどうしてもこの視点に行きがちではある。それは決して間違いでは無いが、人に運動を処方するという事はそんなに簡単な事では無い。そんな話へと至るまでの彼女の日々はきっとそんなに容易いものではなかったのだな。と山吹は思う。

白波 百合
白波 百合

でも・・・実際はそうでないことも多いっす。目に見えるリスクだけを考えていても本当に内在するリスク。それにも目を向けないと基礎疾患を持つ方への過度な運動処方自体がリスクとなることもあるっす。ここからは分かりやすく事例を元に説明していくっすね!

『それだけ?』初めてバイタルサイン測定の報告を行った彼女に言った言葉だ。感情を押し殺す事もせずに素直に不服な表情を浮かべる彼女にこちらも眉を潜めた。そんな最初の休憩室の日々も何だか今では懐かしく感じる。

白波 百合
白波 百合

はい!日常生活でもよく見る感じの人っすね!普段は運動せずに、食生活にも無頓着でラーメンや焼肉屋お好きなものをいつも食べているっす。でも最近体力が落ちているなぁと感じておられて、左肩もなんだか痛い・・・そして駅のホームなんかで急いでいる時に息が切れる様になったっす。それに見てわかる様に肥満傾向であり、腰も痛いっす・・・そして何だか足のむくみも感じてきた方っすね!そういう人が「どういった運動をしたら良いですか?」って相談に来たっす。アナタならどんな運動処方をするっすか?

よくいる人だと言ってしまえばそれまでなのだけど、当たり前できっと誰もが体験する事だ。だけども全てが全て全く同じという事はない。臨床ならば特にだ。

白波 百合
白波 百合

多くの人が考えつく運動処方はこんな感じだと思うっす! まずは痩せて体力もつけて筋肉を増やすために。定期的な運動習慣や階段を使って移動する。そして筋トレをして食事制限をする。こういった事っすかね?それではあくまで事例としてっすけど、その運動を続けていたとしてこの方にはどんな体の変化が起きたかというと・・・

話ぶりも随分と変わったと思う。最初はこちらの教えることを一言一言呑み込むだけだった。それがこうやって自分の言葉として誰かに伝えている。本当に不思議な事に。

白波 百合
白波 百合

この方は心不全の急性増悪で入院されたっす・・・。本当の事例っすから全ての人に当てはまるという訳では無いっすけど、実はこの方は心臓を栄養する冠動脈が狭窄、つまりは細くなっておられて心臓に十分に血流が流れていなかったっす。そして心臓の機能自体が低下しており、結果として心不全という心臓が十分に普段の働きをすることが出来ない状態で、そして身の回りのことをする事も出来なくなった急性増悪という形で入院する運びとなったっす。

『そんな私に君は何をしてくれる?』かつての主任の言葉が鮮明に脳裏に浮かび上がる。自分の教えて知識を自分の言葉で返してくれる。かつての主任はこういう気持ちだったのかな。らしくもない・・・と山吹は一度首を振る。

白波 百合
白波 百合

実はこの方の訴えの中には要注意な発言もあったっす。気がついている人はもう気がついているかもしれないっすけど、一緒にこの人の発言を振り返ってみるっす。

そう言って白波は一呼吸をおく。深く静かに。そして山吹は過去は変えられる事は出来ない。だけどもきっと考えるべきだったかは考える事が出来る。繰り返さない様に。その時と同じ様な時がきたとして、同い過ちを繰り返さない様に。そんなことを考えた。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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