山吹薫はある部屋のドアを開ける。そこには見慣れた姿の面々がそれぞれの姿でくつろいでいる。山吹はゆっくりとソファーに腰を下ろした。
で、これは何の茶番ですか?
ぬはは!茶番とはなんだ茶番とは!久しぶりの邂逅ではないか!
そうよー。なんか同窓会みたいで楽しくない!?
まぁ・・・だからと言ってボクの部屋を使わないで欲しいけどねぇ。一応大学で先生をしているボクのお部屋だよー。
いいじゃーん!と高橋美奈はゴロゴロとソファーに横になっており、その向かいで岩水静は腕を組んで、ガハハ!と笑う。内海青葉はそれをひとしきり見渡すと肩を落とす。
まぁこのままダラダラするのはあれだから・・・そうだねー!なら今日は肝硬変について話さないー?
ぬはは!なんだか懐かしいものだな!ほら山吹!普段の鍛錬の成果を見せる時だ!
だから何の茶番だと・・。肝硬変とは文字の通りに肝臓が硬くなった状態。つまりは長期にわたって慢性的な炎症が起こり、修復機能を持つ肝臓が長期にわたって破壊され、そして修復された結果、結合組織が大量に増えて、繊維化、まぁ全体的に硬くなってそれが不可逆的な状態、つまりは元に戻らなくなった状態を言います。
なんだかんだで薫ちゃんも乗り気にじゃん。
まさか。と答えつつ山吹は正直悪い気はしないがなんだか胸の下あたりが締め付けられるような気がした。それはきっと遠い昔に置き去りにした過去が目の前にあるからだと思う。
ふふふー。ちょっとは人に教えるのも慣れてきたんじゃない?最初は硬かったけどねー。今薫ちゃんが言ったように、当然本来肝臓は柔らかいわ。それが硬くなって全体的に小さくなるのよね。
そして基本的にはそれは元に戻らない。そしてまぁ所謂腹水、腹のなかに水が溜まるような状態になることや、黄疸といって皮膚が黄色くなる症状を呈する黄疸が見られる。もちろん肝臓自体の機能も低下する。その結果、血流もまた障害されて種々の症状を呈するといった所だな。
そして、ある程度肝機能が保たれている初期の肝硬変は代償性肝硬変と呼ばれますね。そして病状が進みその機能がいよいよ果たせなくなると非代償性肝硬変と呼ばれ、またその時には肝臓の機能が果たせない肝不全の状態にもなります。
なんだかんだでこんな話みんな好きだよねぇ。もちろん肝硬変はその先の肝臓ガンに発展するリスクも上がる。何事も一緒だけど早期に原因を取り除いて障害の進行を食い止めることが何よりも重要とされるね。
ふん。と山吹は鼻を鳴らしてソファーに身を鎮める。進藤もまた呼べばよかったなと考える。だけどもそうしてしまうといよいよ過去の情景とその気持ちがまた浮かび上がってしまう。なんだかそれが怖かった。
そしてその症状はさっき静が言ったように、肝臓の機能が低下したことによる症状と、血流障害を主にして、それに付随していろんな症状が出てくるのね。
そうだよー。特に初期では肝臓機能の低下に伴って食欲不振や、全身の倦怠感、体重減少を訴える方も多いのよねー。
それに付け加えて、肝臓ではアンモニアもまた代謝するのですが、その機能が低下してしまうと、それが体内に蓄積して、血中に増加すると肝性脳症もまた呈します。これは意識障害や最悪意識障害から昏睡状態にも陥ります。
そして病状が進むと、さっきも言ったが目や顔といった場所が黄色く見える黄疸や、鼻や歯茎などから出血しやすくなったり、手のひらの周辺部が赤くなる手掌紅斑、首や胸・頬に赤い発疹が出来るクモ状血管腫が起こる。
みんな当然のようにつらつらと話している。それぞれの生き方を見つけて、それぞれのままに生きている。あの時間を彼らもまた思い出すことがあるのだろうか。山吹はそう思う。
そして門脈圧亢進症状だね。これは肝硬変の症状では一番よく聞くんじゃないかなー?もちろん黄疸もまた良く知るところだけど。
門脈っていうのはそれぞれの消化器から血液を集めて、体の中の工場である肝臓にその代謝に必要なものを送る場所で、一同に静脈が集まるところよね。そこから肝臓に血液が入っていく場所よね。
そうその工場自体がその機能を十分に生かすことが出来なくなってしまうと、その工場に入れなくなるよな。肝臓に送り込まれる血液の八割ほどを担う大事な血管だから、その先が硬くなり通れなくなると当然、血流も滞る。
それでも次々と血流が流れ込んでくるから圧が上がる。その結果、腹水が溜まり、大量に溜まると腹部が目立つほど膨れ上がることもありますね。当然不快感もある。そして大切なのは側副血管の形成、これはつまりは回り道ですね。腹部の表面や直腸周囲に見られることもありますね。消化管がまた出血しやすくなるのでそれにも注意が必要ですね。何しろ運動したら血圧も上がる。
全くこの人たちの考えていることはいつまでたっても分からない。そう思う。そう思えるほど時間も経ったのだな。山吹はそんな事を考える。そして体を奇妙に曲げて俯く自分の顔を覗き込む内海の顔に驚いて、うひゃぁと情けない声を上げた。
山吹薫の覚書 その51
・肝硬変はまだ機能が保たれている非代償性肝硬変と、その機能が失われた代償性肝硬変に分けられる。
・障害はその肝臓自体の機能が失われて事によるものと、血流障害によるものに分けられる。
・みんなは過去を懐かしく思う事はないのだろうか。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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