高橋美奈は今は大学教員である内海青葉の教室で、ゴロゴロとソファーにその身を預ける。確かに茶番だよねぇと。そんな事を考える。
えぇと話の続きだよね。肝硬変の話!普通に生活する上ではあまり起きないんだけど、その原因はなんだっけー?
それはもう知っているでしょう。一般的に多量のお酒を長期間呑み続ける事。それによって起こる事は認知されていますよね。ですので美奈さんは十分に気をつけて下さい。
ちょっとそれどういう事ー?それに沢山食べてしまう過栄養、昨今ではこれもまた問題だよーね。というかこれからそういう方が増えると私は思うのよねぇ。年代的に。
ふむふむ。そうだな!ちょうど高度成長期、日本の食生活は近代化、いや欧米化しつつあった時に働き盛りの人は、当然昔の食生活とは違う。よって罹患している方が、今後高齢となり体調を崩し入院するかもしれないな。
まぁ他にも喫煙歴があったり、腎臓病を抱えていたりと、生活習慣病を起因とした多数の疾患を抱えている可能性もあるよねー。ボクらもちゃんと気をつけないと、若くないんだし。
そうだな!とぬははと笑う岩水静の影で山吹薫がため息をつく。大人になったと思えばなんだか心の中の一部は新人ちゃんのままで時間が止まっているのねぇ。と高橋もまたため息を吐く。
でもそれだけではありませんよ。B型・C型肝炎ウイルスの感染や、自己免疫疾患などによって起こる慢性的な肝炎や肝障害が徐々い進行して肝硬変も生じる事があります。硬く小さくなるのですね。
それだよねー。肝細胞は障害されても自分自身で復活もまた出来る細胞だけど、全てが完璧元どおり!なんていかないのさー。
そうだな。肝細胞は壊れた部分を補うように再生していると思いきや、繊維質が蓄積して肝細胞の中に壁が出来ていくのだな。そしてその壁の中で肝細胞は増えるともされていて、最終的に壁に囲まれて狭まったところで結節、まぁ塊のようなものを作るのだ。
そして、肝細胞が包まれたこの結節が沢山集まって変化したのが肝硬変という訳ね。その結節は硬いから、肝臓もまた相対的に硬くなるの。
ふむ。と山吹は考え込んでいる。多分その頑だった意思が変化を見せようとしている。それはなんとなく分かる。大切なのは背中の一押しだという事も。
それにその壁に囲まれた肝細胞は、元どおりの形を目指してある程度以上増えると壁に邪魔されて、それ以上増えなくなるの。それで最終的に肝臓は元の大きさに比べてちょっと小さくなるのね。
そもそも、肝臓が代謝するためにはそこに流れ込む血液が必要なのは話したよーね。でも美奈が話したような小さく硬くなってしまうと、当然肝臓の中を血液がスムーズに流れなくなるのさー。
そして各種の消化管から肝臓に至る門脈などの血管の流れが渋滞して、流れが滞るということだな。
いわゆる門脈圧亢進という訳ですね。そこからまた種々の動きが見えて来るということですね。
そう答えつつ山吹はまた別のことを考えていることも分かる。昔からなんとも分かりやすい新人ちゃんよねー。と高橋は笑みを浮かべる。そしてどれほど彼にとって主任ちゃん、、、石峰優璃の存在が強すぎるという事も。
流れにくくなった門脈の血液は、その先が滞っている訳ですから、体のあちこちに出来る短絡路(シャント)を通って、肝臓を通らずに他の静脈に流れます。決して流れを止めまいとする働きですね。
いろんな所があるけれど、それで問題になるのが、食道や胃の静脈だったりするよねー普段以上に流れる血液が来ちゃう訳だから、血管が不均等な部分が膨れる、食道や胃の静脈瘤を形成する事があるのねー。
瘤と言ってもただ腫れている訳ではなく、そこには血液が溜まっている。当然血管も薄くもなる訳だから、それが時に破裂する。
そして大出血を起こすのね。食道や胃から多量に出血した血液は口から吐血したり、特に胃なんかはたまった血液が黒い便や暗褐色の血液として排泄される下血として排泄される。その結果、過度の貧血や時には出血性ショックの状態になってしまう。そしたらもう救急治療が必要になるわ。
ちょっと前なら優璃の後を追って自分を傷つけながら倒れるまで進んでいたのかもしれない。この不器用な薫ちゃんだから。でも薫ちゃんには今は多くの仲間がいて、そして白波百合が側にいる。不思議なものねと高橋はクスっと笑みを零す。
何か楽しい事でもありました?でもこうやって肝硬変は進みます。そしてすべての人がそういった肝硬変として肝臓が不可逆的に障害されている訳ではありませんね。
さっき話したやつね。症状の無い代償性肝硬変の方もきっと沢山いらっしゃるもんねー。でも症状が無いという事がまた厄介なものなのよ。
そうだな!歯が猛烈に痛くなら無い限り歯医者に行か無いように。体に明らかな変化が出無い限りは病院には行かないものだからな!
その例えもまた極端だよねぇ。でもそのまま症状が進行して、いろんな症状が出始める時にはもう、非代償性肝炎と呼ばれて、もう代償が効かないという事だし、肝がんのリスクも高まる。何事も早期発見だよねー。
もちろんそうでしょう。ならどうそれを発見するかですが・・・
その前に休憩ー!と高橋の声に山吹は目を細める。きっとこの子の過去は白波百合が救ってくれる気がする。そして未来も。あの薫ちゃんと同じくらい不器用な優璃には無いものを沢山持ってるから、高橋は頭をかかえる内海を横目に戸棚から茶菓子を持ち出しそれをみんなの前に広げるのだった。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】
雑談で学べるラジオも好評放映中!たまにはまったり学んでみませんか?
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【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
山吹薫の覚書 その51
・肝臓が大きく障害された後、回復するまでに繊維質による結節が形成される。それによって肝臓は硬く、小さくなる事がある。
・門脈圧が亢進すると短絡路(シャント)が形成される。それが時に静脈瘤となり、破裂するとショックに陥る事もある。
・やはりこの人達は僕に言いたい事があるのだろう。
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