脈拍測定の話 その③ 〜脈拍で考える本当に怖い事〜

脈拍測定
山吹 薫
山吹 薫

なんというか呆れたというか感心したと言うか。

白波 百合
白波 百合

デッドスペースは有効活用っす。

白波の前に菓子の袋が並んでいる。古いマニュアルが入っているはずの、古ぼけた戸棚はいつしか白波の食糧貯蔵庫となっている。

白波 百合
白波 百合

糖分の補給も終わったので、続きをどうぞ。

山吹 薫
山吹 薫

・・・ならとりあえず脈拍測定の時の不整脈は怖いのも有る事はわかったね。

白波 百合
白波 百合

はい!存分に!

白波の口の中はもごもごと動いている。両ほほは膨らんで動物かと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

だけどもリスクを恐れていてはリハビリテーションは成立しない。
リスクと戦うからこそ意味があるんだよ。

白波 百合
白波 百合

なんだか乳酸菌みたいな事を言ってるっすね。

白波は目を丸めて至極当然にそう答える。山吹は一度咳払いをする。

山吹 薫
山吹 薫

例えば心室細動や心室頻拍。もちろんこれはリハビリは行えない。
というか心肺蘇生が必要になる。ただし心室性期外収縮ならば?

白波 百合
白波 百合

心室性期外収縮ならば当然運動負荷はかけたらダメっす。

山吹 薫
山吹 薫

じゃぁどうやってその人は家に帰るのだろうか?それを合併している人は少なくは無いね。

白波 百合
白波 百合

・・・運動が必要っすけど、でもそれじゃ症状が酷くなるんでしょう?

山吹 薫
山吹 薫

運動の種類によっては生命予後は伸びるといったね。低負荷高頻度。循環動態に変化を与えるような、高負荷のいきむ事を避けて低負荷の運動療法を実施する。全ての患者に漸増的な運動負荷試験は行うことは理想だが現実的では無い。具体的にどうするかはまた話すよ。

白波 百合
白波 百合
 

とりあえず・・・先輩に相談すれば良いっすね!

 

白波は堂々と親指を上げる。そうだね。と答えながら山吹は広角に付く菓子の破片が気になってしょうがない。

山吹 薫
山吹 薫

不整脈の種類は沢山あるし、それを一気に勉強するには時間が掛かるからね。特に心室が関わる不整脈を伴う際には、どうやって運動負荷を掛けていくかはよく相談しておくれ。まずはそこからだよ。

白波 百合
白波 百合

はい!そしてもし心房系等だったら大丈夫なんすか?

山吹 薫
山吹 薫

種類にもよる。もちろん血圧が保て無いほどに頻拍になると、リスクは高い。だけども特に心原性脳梗塞患者で良く見る不整脈があるね?

白波 百合
白波 百合

ちょっと待ってください。ここまで出てるんすけど・・・

そういって白波は眉間に人差し指を当てる。口を通り過ぎているではないかと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

心房細動と心房性期外収縮こっちの期外収縮は普通の期外収縮と表現されることがある。

白波 百合
白波 百合

もう少しで出るところだったんすけど!?でも今までの話からすると、これも先輩に聞いたら良いですか?

口を通り過ぎていたではないかと山吹は目を細める。

山吹 薫
山吹 薫

それもそうだけど、こっちの不整脈はまだ僕は安心して介入しているよ。条件はあるけどね。

白波 百合
白波 百合

条件・・・?

山吹 薫
山吹 薫

抗凝固療法が行われているかどうか、十分に効果を示しているか、脱水症状が無いか。くらいかな?もちろん生化学検査と身体所見から確かめる。

白波 百合
白波 百合

聞いたことはあるけど、よく分からないのばっかりですね。

山吹 薫
山吹 薫

うん。素直なのは良いことだけど・・・。他には左や右の脚ブロックもまだ顕著に血圧や心拍が増減しない限り、まだ僕は安心して介入している。そして一番僕が警戒しているものがある。

白波はうんうん。と何度も頷いている。多分全部はわかっていないだろうが、伝わることが伝わっていればそれで良いと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

徐脈だよ。

白波 百合
白波 百合

それは流石のウチでも知ってるっす。脈が少なくなるんすよね?

山吹 薫
山吹 薫

うんそうだね。・・・君は人が死んでいく時の波形は見たことあるか?

白波の顔が固まる。その表情は見たことがなかった。しまったなと山吹は視線を逸らす。

山吹 薫
山吹 薫

そうか。脈がどんどん少なくなっていくんだよ。血圧で代償も出来なくなったら生きては入れない。もちろんスポーツ選手、特に陸上選手なんかにはそういう所見も見られる。ただし僕らが相手にしているのは多くの慢性疾患を持つ高齢者だ。警戒はしなければならない。

白波 百合
白波 百合

・・・はい。

白波の言葉は少なく俯いている。だけども教えなければいけないこともある。言葉を山吹は続ける。主治医の指示があったとしても特に流動的な、状態の悪い患者のリハビリテーション中に起る責任は、セラピストにあるのだ。

山吹 薫
山吹 薫

心房と心室の連携が取れなくなる不整脈もある。房室ブロックだね。これも高度になると恐ろしい。運動負荷で心不全が進行することも多い。脈拍と心拍数は違う。見えることも考えることも違う。だけどもそれは予測しなければならない。そして分からないことも知らなければならない。

白波 百合
白波 百合

それはわかっています。本当に痛いほどに。

山吹 薫
山吹 薫

それならば良いんだよ。

言いすぎたのかもしれない。山吹はそう思う。だけども・・・山吹は昔の事ばかりを思い出している。

白波 百合
白波 百合

とにかくこれからは脈拍測定をする時には心電図もしっかり確認して先輩に相談するっすね!

白波は一度顔を伏せる。

そして顔を上げると一転して白波は元気な声でそう答えた。でもそれはどこか硬い笑顔に山吹は見える。そして白波は失礼するっすね~。と席を立った。

白波を見送った後いつもの休憩室が静かだと、山吹はそう思った。

白波百合のノートその⑦

・心電図を確認して不整脈の種類を確認してから脈拍測定を行う。

・運動負荷によって良くも悪くもなる。だから良く相談する。

・不整脈にもいろいろある。まだまだ勉強が必要。

・ちょっと嫌な事を思い出した。

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