膿胸の話 その② 〜膿胸とリハビリと治療〜

肺炎

なるほどな。と山吹薫は正面に座る三人の話しを聞き終わり、文献の端を揃える。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ話しは大体わかったよ。だからと言って僕に聞きに来る必要はあるか?

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁまぁどうせ退屈なんでしょー。百合ちゃんは用事で居ないし

桜井 玲奈
桜井 玲奈

沢尻さん失礼ですわ!貴方と違って山吹さんはきっとご多忙なのですわ!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

まぁええやんか。困った時の山吹先生やん!

先生ではないと山吹は答えつつ、坪井咲夜の表情を視線を向けずに覗く。白波百合からは話しを聞いている。大変だなと思いつつかける言葉を心の中に探す。

山吹 薫
山吹 薫

さて膿胸のリハビリテーションだったな。最初に言っておくが、リハビリテーションで膿胸自体が改善する訳ではない、その治療に並行してリハビリテーションを行い体がそれ以上弱ることや、別の合併症を招かないようにする事が目的だという事を忘れてはいけない。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。ウチらの技術だけで感染症が治ったら苦労はせえへんな!でもやっぱり合併症予防や廃用症候群予防はとっても重要やと思うのは一緒や。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー。そして治療と並行してという事がやっぱり急性期ならではの感覚だと思うよ。なかなかそこ以外では体験出来ない事ではあるからねー。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

確かにそうですわ。・・・それで山吹さんのお話を聞きに来たのですがご多忙ではないでしょうか大丈夫でしょうか?

なんだか無口だと思っていたら随分と話すようになったなと、山吹薫は桜井玲奈を眺め、そしていつもと変わらない沢尻悠に視線を向ける。

山吹 薫
山吹 薫

個人的にではあるが、もちろんリハビリテーションは早期の離床を進める。そして車椅子へと乗り元の生活に戻る。これは基本だが、他の・・・例えば心臓外科手術後、交通外傷による多発肋骨骨折と肺挫傷、他の諸々の胸郭に関する治療や疾患後に共通してやらなければならないのが咳の指導だ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かにな・・・痰の量が増えてんねんからそれを上手く出せるようにせなあかんな。もちろん吸引っている管を喉に入れて吸い出す方法も必要やけど、まずは自分で出さへんと感染が続いたり酷い時には喉が閉塞するねんもんな。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

でも胸にドレーンが入っていたり、胸を手術された後でしょう?それは随分と痛い気がしますわ。

沢尻 悠
沢尻 悠

他の肺疾患でも共通だねー。その時は厚めのタオルで胸を軽く押さえたりバストバンドを利用して、咳の刺激で胸郭は大きく振動して痛みを出すのを防ぐ方法が有用だねー。自分でコントロールするって事!だけど挿入位置や他の循環器疾患との兼ね合いもあるから、主治医としっかり相談する事だね!

ねっ山吹さんと沢尻はこちらに視線を向ける。その視線を避けて一つ咳払いをする。

山吹 薫
山吹 薫

そしてもちろん呼吸機能の評価も必要だ。聴診からどこに空気が入っていて、どこに入っていないか。もちろんドレーン挿入前後の評価、姿勢変化に伴う換気量の評価も必要だな。そして呼吸の楽な体位を見つけて呼吸の練習を行う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

つまりは腹式呼吸やな。やっぱり息が苦しい時間が長いと、ゆっくりと呼吸をする事も怖くなるねんからそれをもう一度一緒に練習するって事やな。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それに呼吸が楽な姿勢を見つけるというのがとっても大切だと思いますの。仰向けに寝るのは辛いですし、治療の必要性からその姿勢じゃなきゃダメだと思っている方も多いですわ。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだよねー。まずは安静に寝ている時の呼吸を整える。安楽に過ごせるようにする。そうする事で例えば車椅子の起きる練習で息が切れても、横になって安楽な姿勢で休めれば良いからねー!

せやな!と坪井はいつものように返事をしているが無理をしていると山吹は思う。確かにそういう事は分かる。だけども言葉にならないのが自分のダメな所だと、白波と過ごす日々で痛感した事の一つだ。

山吹 薫
山吹 薫

そして離床の際にも多くのリスクは潜む。多くは酸素療法、もしくは重症化していれば人工呼吸器を使用している。そして胸にはドレーンが入っている。その状態で起こすのか?と言われそうだが、起こすことでより膿が廃液されたり、痰が出しやすくなる。何よりも肺をしっかり動かして結果的に呼吸が楽になることも多い。ただベッドから起きて座るということでもその時々で目的が違う。それを理解してやるのとやらないとでは結果に大きく差が出る。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

なるほどですわね。身体機能の改善と言われると体力を付けるとか、筋肉を付けるという事に頭が向かいがちですが、そういう視点も確かに必要ですわね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。急性期では医師の治療の一つ、あくまでお薬を処方するように病態改善のためにリハビリがあるような気がするね。だからこそいろいろ知らなければならないのだけど。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどな。病態改善のために離床か。やっぱり普段運動ばかりのリハビリをしているとそういう事に目が向かない事もあるからな。ちょっと咲夜ちゃんも反省や。

そう戯けて見せてもやはりいつもとは違う。白波と一緒にこの子との付き合いも随分と長くなってきたからなと、山吹は息を漏らす。

山吹 薫
山吹 薫

大まかに説明してきたが、もちろんいろんな要素もある。急変のリスクだってある。だけども忘れて欲しくないのは、そういった方を専門に治療やリハビリをする病院やチームもあるという事だ。知識も経験もある。だから・・・大丈夫だ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

・・・そういう場面では断言できる事なんてないやろ?いつもの不器用鉄面皮はどこいったねん。でもな・・・ありがとさん。

へへっと笑みを浮かべる坪井と視線を伏せる山吹。何も分かっていない沢尻と、そのやりとりに、何か尊いものでも 見出したかのように頬を染める桜井。いつもとは違ういつもの休憩室は段々とその明かりを落としていった。

坪井咲夜の手帳 その4

・呼吸機能の評価を行い楽に呼吸手段を探す。そして痛みを抑えながらしっかりと咳をして、痰を外に出す。

・心配しないでも重症患者に対する治療やリハビリを行うチームがいる。

・まったく相変わらずの不器用鉄面皮やけど、ええところはある。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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