血糖値の話 その②  〜なぜ血糖値は高くなるのか?〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

しかし不思議なものだと山吹薫は隣に座る進藤守を見る。いやに楽しげなのが鼻に付くが、こうやって誰かと肩を並べて勉強をするだなんて事は今までなかった。

進藤 守
進藤 守

それで石峰さん!血糖値はどうやって維持されるのですか?やっぱり食事とかですかね。

石峰 優璃
石峰 優璃

それが基本だが、なんでも過度はいけない。それは負担になるからな、業務と同じだ。

山吹 薫
山吹 薫

なるほど。今の僕と同じですね。

それはまだ足らんな。と石峰優璃は笑みを浮かべ、そうだそうだと進藤はニヤニヤと笑っている。どうにかしてコイツの仕事も増やしてやろう。そんな事を考えた。

石峰 優璃
石峰 優璃

そもそも体は過剰な血糖を減らそうという機構は少ない。むしろ血糖値を上げようとする働きの方が多い

山吹 薫
山吹 薫

アドレナリン系統のホルモンですね。あとはコルチゾールや膵臓に存在するグルカゴン、成長ホルモンもそうでしたよね。

進藤 守
進藤 守

何でそんな機構になったんでしょうねー。高血糖で悩む人の方が多いですよねー。

石峰 優璃
石峰 優璃

それは社会的な変化だろうね。生物として食物が飽和しているのはヒトくらいだからな。

そう石峰はため息を吐く様にその言葉を吐く。それはとても儚くリハビリ室の大気中へと霧散した。

石峰 優璃
石峰 優璃

それ故に、過剰な食生活では過剰なエネルギーとなりやすい。よって膵臓もまたインスリンを常に分泌せねばならないから、それが負担となり機能が低下する。

進藤 守
進藤 守

なるほど。それで血糖値が高くなるんだ!糖尿病となる訳ですね

石峰 優璃
石峰 優璃

それだけでは無いよ。他に運動不足も加わるとインスリン抵抗性が増加する。インスリン感受性が低下するとも言うな。細胞がエネルギーを使う機会が少ないと、インスリン自体も細胞で働き難くなる。

山吹 薫
山吹 薫

それで運動療法が必要になるのですね。

自分は・・・まぁこの仕事自体が過度な運動のようなものだと思った。主任はどうだろうと思うが、きっと同じようなものだろうと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

という事は血糖値が高いからといって体にエネルギーが満ち溢れている訳ではないんですね。

進藤 守
進藤 守

確かに!エネルギーの元は沢山有っても・・・細胞でエネルギーが作られない訳だからな!

石峰 優璃
石峰 優璃

それだけではないよ。進藤君は分かるだろう?水分の中に糖が多いと粘性が増す。

進藤 守
進藤 守

確かにリキュール類はドロドロとしていますね。逆にウイスキー類はサラサラですねー。またいつでもご来店くださいね。

その内な。と石峰は白い頬を右手に預けてそう答える。ならば僕も必ず行って苦労をねぎらってもらわねば。そう思った。

山吹 薫
山吹 薫

なるほどですね。高血糖が続くと血液自体の粘性が増す。ドロドロと流れ難くなると言う事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

それもまた大きな問題だ。まずは血液自体が濃くなる訳だから水分自体を引き込む。よって脱水傾向となる。ペットボトル症候群なんかそうだな。糖分が過剰に添加された飲料水ばかりで水分を補給すると喉が乾く。それは血中の糖分が過剰になり、それを薄めるためにまた飲み物を欲するという堂々巡りに陥る訳だな。

進藤 守
進藤 守

確かに小さい子の糖尿病の原因にもなりますね。スポーツドリンクが決して悪い訳ではないのですけどね。

山吹は石峰のデスクに置かれた黒犬のマグカップを見る。逆にこの人には糖分が足りないのではないかと思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして血液の粘性が過剰になると流れが悪くなるのは分かるな?

山吹 薫
山吹 薫

流れにくい血液を押し出すために自然と血圧も上がるし、血管自体もまた強引に流している訳ですから傷つきますね。

進藤 守
進藤 守

れで・・・脳血管障害のリスクとなる訳ですね・・・

石峰 優璃
石峰 優璃

もっと直接的に障害されるのは末端の小さな血管だよ。

細い血管ほど流れが悪くなる。糖尿病の状態が続くと、手や足の末端で血の流れが阻害される。そしてそれは神経に対してもだから、手足の末端ほど感覚障害を起こす。

山吹 薫
山吹 薫

なるほど、それで細い小さな血管のある腎臓の糸球体、腎障害を起こしたり、目を栄養する細い血管もまた障害されるから目の障害も起きるのですね。

改めて何事にも理由があるのだなと山吹は改めてそう思う。学べば学ぶほど奈落に落ちていく・・・そんな気分になる。そしてその奈落のずっと奥に主任はいる。そんな気分になった。

山吹 薫
山吹 薫

だから適度な運動でインスリン抵抗性を改善、インスリンを使う習慣を体に覚えさせて、それでも酷い時にはインスリンを体外より摂取する。

進藤 守
進藤 守

でも根本的に食事習慣を見直すことも必要だなぁ。

石峰 優璃
石峰 優璃

そしてそれらの障害は当然、他の生活習慣病と合併しているから問題となる。高血糖だからと言ってそれだけに囚われると痛い目を見るからな。

ですよね。と山吹はそう返事をした。それでも知識が増えることは純粋に嬉しかったが、まだまだ主任の見えている世界には程遠い。そんな気分にもなった。

山吹 薫
山吹 薫

進藤も自分の生活を見直さないといけないな。

進藤 守
進藤 守

そうだなー。薫も運動習慣をつけないといけないな。

山吹は進藤を見て眉を潜め、進藤は山吹を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。その二人を見て石峰はゆっくりと首を傾げながら薄く笑みを浮かべる。光を透過する黒く細い髪もまたゆっくりと揺れた。

山吹薫の覚え書 22

・高血糖だからと言って細胞でエネルギーが沢山生み出される訳ではない。

・高血糖状態が続くと様々な疾患へと繋がる。血管の粘性が高いままだと神経や目にもまた障害が起きる。

・進藤は口が減らない。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

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