骨折の話 その③   〜手術までに知っておくべき事〜

離床

しっかし先輩が学生時代に先生として来てたとはっすねぇ・・・と白波百合は山吹薫を眺めながらそう改めて考える。先日知ったその事実の衝撃は今も尚、胸の中に残っていた。

山吹 薫
山吹 薫

どうした?ぼーっとして?

白波 百合
白波 百合

なっ何でもないっす!そして自分たちは骨折した方に何が出来るんすか?

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー。骨折して手術を迎える、そして手術をした翌日からのリハビリが始まるから、ここからは周手術期のリハビリテーションを行う必要があるんだよー。

上代 葉月
上代 葉月

回復期病棟ではあまり経験しない事ですよね。色々難しいと聞いているのですが・・・

不安そうに表情を歪める上代葉月に大丈夫だよーと沢尻悠はそう答える。

それは未だ自分も同じっすかね。と白波は山吹に視線を向ける。

山吹 薫
山吹 薫

まず術前にしても全身状態の安定が得られているかどうかは重要になる。単純な骨折ならばそうでないが、高エネルギー外傷や多発骨折が複数、特に脊柱や肋骨に及ぶ場合には特に全身状態の評価が必要だ。

沢尻 悠
沢尻 悠

呼吸状態や循環状態が落ち着いているかどうかだねー。例えば頚椎の骨折で神経に障害が及んでいるならば、自律神経が高度に障害されてしまて徐脈になったり、肋骨が複数折れていたならば呼吸状態にも当然影響が出てくるのー。これもまた元々患っている疾患の増悪にも繋がるから情報収集をベースにしっかりと全身状態を評価する必要があるね。

白波 百合
白波 百合

それはまだ充分に自分には難しそうっすけど、それでもまずはバイタルサインが落ち着いている事が手術するにも必要っすけどね!もちろんそれ以外にも緊急手術が必要な時もあるとは思うっすけど。

上代 葉月
上代 葉月

私たちのいる回復期病棟でも骨折は起きる時は起きるし、手術が出来るまでしばらく待機する事もありますからね。その時は相談しますね。

もちろんだと山吹は答える。しかし、もうちょっと学生の時にこうやってしっかり勉強していれば先輩も自分の事を覚えていてくれたっすかね。と白波は思う。正直なところ桜井玲奈ちゃんの事を先輩が覚えていた時は胸がぎゅっとした。

山吹 薫
山吹 薫

周手術期の全身状態についてはまた今度だな。今度白波君に受け持ってもらう患者様はそこは落ち着いていて、左大腿骨頚部の人工骨頭置換術だ。しかしだからと言ってそれだけが問題ではない。勿論問題になるのが痛みと不動だ。骨が折れてからの多くが骨折がそれ以上ズレて組織を損傷しない様に整復が医師によって為される。ギプスやシーネなどの外固定や足を吊るといった牽引をする時もある。だから決してそれを自分で外さない様に伝える事も必要だ。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてそれでもベッド上での生活を余儀なくされるから、痛くない姿勢をクッションなどを使って一緒に探す事もまず必要だとオレは思うよー。それだけでも楽になる事が多いからねー

白波 百合
白波 百合

確かに痛みの評価と対策は重要っす!後は当然神経が障害されて骨折部より下の動きや感覚が鈍っていないかっすね!痛みを落ち着ける為に深呼吸の必要性を伝えたりとか、お話をしっかりと聞かないとダメっすね!

上代 葉月
上代 葉月

そうだね。手術の前の説明は主治医が分かりやすく説明してくれるけど、それでもやっぱりリスクの説明もされるしやっぱり不安になってしまうよね。必要な事だけど。

もしも・・・だなんて考える事はあまり好きじゃないっすけど、それでもそう思ってしまうっすね。と白波は思う。それでもまぁ・・・こうやっていつでも先輩が側にいるから結果はオーライっす。

山吹 薫
山吹 薫

骨折の手術には様々な手法はある。単純で軽度の場合には保存療法が用いられる事もある。それに超高齢で手術自体にメリットが乏しい場合でもだな。それでも多くが手術適応となっている現状もある。骨に金属を差し込み固定する髄内釘やプレートで固定する観血的組成服固定術(ORIF)の場合や人工関節置換術といった事もある。その説明は聞いているだけでも痛い。

沢尻 悠
沢尻 悠

だよねー。だから不安になる。痛みの症状以外にもその痛みを和らげる為にしっかりとお話を聞いたり、訴えを傾聴するだけでも患者様は楽になるよー。そして手術の後すぐにリハビリが始まる事に不安な人も多いからそれもしっかり伝えないとねー。伝えられない事も多いけど、訴えの傾聴はまず必要。もちろん!血栓予防の為の動く範囲での足首の運動を行う事もまた伝えなきゃねー。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。まずは現状の状態の評価を行ないながら、手術の後のリハビリがしっかりと進むように一緒に考えるんすね!

上代 葉月
上代 葉月

だね。やっぱり不安なままで1日ずっと過ごすのは嫌だもんね。

そうっすね。と白波は上代にそう答える。上代の表情の奥では何かを考えているようだったけど、それはなんだか聞けなないような、そんな気がした。

山吹 薫
山吹 薫

まぁあくまで今回のケースのような全身状態が落ち着いている方でもあるがな。これが多発外傷である場合や、受傷後にショック状態に陥っていたり、人工呼吸器が使用され集中治療室管理となっている場合にはまた話は違ってくる。必要時によっては全身状態が落ち着いていない状態での緊急オペが行われる事もあるし、術後肺炎のリスクが高く、術後帰室して直後に起こす事だってある。まぁ何にしても単純な病態は無いという事だな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そこの所はオレもしらないけどねー。だけどもそうだよねぇ。特に術中から術後にかけては全身状態もダイナミックに変化するから主治医や看護師さんとも連携を取りながら早期の離床を図らなければならないよー。患者様はなんで?と思うかもしれないけれど、術前からしっかりと廃用症候群によって起こる怖い状態を伝えなければならないと思うよー。

上代 葉月
上代 葉月

そうですね。呼吸法や深部静脈血栓症といった事もそうですけれど、知らなければやっぱり出来ないですから。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。ならば直ぐに取り掛からないといけないっすね!

そうだなと山吹はいつものように答える。さてここからが自分のリハビリテーションっす!白波はいつものように右手を額に当ててそう答えた。

いつだって先輩は近くに居てくれる。それだけで心が温かくなるのを感じた。

白波百合のノート 94

・術後のリハビリテーションは術前から始まっている。全身状態や身体機能の評価を行ないながら呼吸法や足首の運動を指導する。

・患者様の不安に寄り添う。しっかりと訴えを傾聴して痛みが少ない姿勢を一緒に探す

・先輩がいつも一緒なら心強いっす!でも・・・

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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理学療法士。作家。つむぎ書房より『看取りのセラピスト』を出版。理学療法士としては、回復期から亜急性期を経て、ICUを中心に働き内部障害を中心に患者へと関わる。ご連絡はこちらからも→Xアカウント(旧Twitter)@tanakan56954581 他にも多くの小説ストックあります。

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