在宅でのリハビリの話 その③  〜誰もが知っておくべきリスク〜

訪問リハ

まさかこの前、勉強会のお話してくれたおじさんが先輩の先輩だなんて・・・と白波百合は何故か頭を抱えている山吹薫の横でそう思った。

病院玄関の談話室は徐々に静けさが訪れている。

白波 百合
白波 百合

それでおじさん!転倒や骨折に関連するリスクは栄養障害だけではないってどういう事っすか?

岩水 静
岩水 静

ふむ。退院時にメインに申し送られるのは転倒のリスクだな。それは確かに重要な事だが、何も動作の不安定性だけがその原因で無いのだよ。山吹はどう思う?

山吹 薫
山吹 薫

それはひとつは廃用でしょう。いわゆるサルコペニアにも関連しますが、活動性の低下は様々な疾患を呼び寄せる時もありますし、生活指導次第ではありますが、脱水症や熱中症、そして尿路感染症といった感染症の発症により廃用する。そして転倒につながるという事ですかね。

岩水 静
岩水 静

ふむ。それもひとつの要因だな。自宅に帰ったら入院中より活動性が上がる方ももちろんいる。だけども入院中に比べて活動性が低下する事もある。そしてそれを予防するために自主トレーニングが指導される訳だが、何も精神的な因子や運動習慣の欠如だけが問題では無いのが問題だ。

ふむふむ。と白波は岩水静の言葉に頷く。そしてこうも沢山の、多くは先輩の先輩だけど、臨床以外でも患者様の生活を守ろうとしている。内海青葉は教育の場で、高橋美奈は民間でそれぞれ頑張っているのだと思う。

岩水 静
岩水 静

まずは誤嚥性肺炎だな。これは市中肺炎の中でも現代は多いと思うのだよ。加齢や疾患に伴い自宅生活の中で徐々に誤嚥のリスクは増す。これは運動器だけのリハビリでは完全にリスクは取り除け無い。入院中からの介入が必要となるし、入院中にいくら指導したしてもリスクは完全に取り除け無い事も多い。実際どうするか?という所が必要だ。どうだ山吹も思い出さないか?以前そういう症例が居ただろう?

山吹 薫
山吹 薫

覚えていますよ。ワレンベルグ症候群の方で、身体機能は問題無くても嚥下機能が完全に回復しない方でしたね。調理訓練を実際に言語聴覚士の進藤が行いつつ、作業療法士の美奈さんが環境を整え、そして岩水さんが呼吸の指導、排痰方法や嚥下の際の呼吸方法を指導しましたよね

白波 百合
白波 百合

へぇー!面白いっす!どうしても調理練習は作業療法士さんがやるイメージがあったっすけど!誤嚥のリスクを確かめつつ指導とリスクの共有が出来るっすね!

岩水 静
岩水 静

結果的に進藤が料理を教わっていたがな。他にも栄養士とも協働する事で自宅での誤嚥リスクを減らして実際どう作るか、どう食べるか、といった方法を在宅につなげる事も出来る。やらねば出来ない事も多いのだ!

そうっすね。と白波は頷く。知らなければ、やらなければいつまでも知らないままだし、出来ないままだ。何にでも言える。それは先輩に知識を広げてもらい、進藤守や沢尻悠と共に現状の問題点を知る事でさらに今ではそう思う。

岩水 静
岩水 静

それに心疾患のやはり大きな問題となる。例えば高度の弁膜症だったならば運動負荷は厳密に、それどころか食事や飲水量もまた厳密に指導しなければならない。それに極端な話、手術をしなければ治らない上に、非常に大きな侵襲の手術になるから保存療法のまま在宅生活を送る人も多い。

山吹 薫
山吹 薫

それに大動脈解離につながる大動脈瘤もそうですね。これは症状がほとんど出ずにある日突然破裂するリスクもあるから非常に怖い。

白波 百合
白波 百合

なるほど・・・いくら保存療法と言ってもそうせざるを得ない時もあるって事っすね。それで保存療法だからといって症状が進まないとも限らないっす・・・

岩水 静
岩水 静

山吹の教え子にしては良い事を言うじゃないか!そうなのだ。それが大きな問題であり、疾患の理解が出来ていないと初期症状を見逃してしまう。不整脈だったそうだな。何の不整脈であるか知らないと致死的な不整脈に繋がる事もある。そして弁膜症や不整脈だってそうだが、多くは心不全となって救急搬送になる事にもつながるから要注意だ。

在宅にも、民間にも、そして入院中の患者様もまた皆、急変のリスクを抱えている。そしてそれは多くは無いとしても目に見えない事で緩やかに進行する。そして発症したら今までの生活は送れない事もある。それは嫌という程知っていると白波は思った。

白波 百合
白波 百合

結局のところ、ひとつの転倒や廃用症候群でもその裏には呼吸器疾患や循環器の疾患が、人によっては他の内部障害が潜んでいるって事っすね。

岩水 静
岩水 静

もちろんそうだと俺は思う。そしてその症状のコントロールを行うにはそれらの知識が要る。経験は無くとも知っておく必要がある。それは我々セラピストもその対象となる方も同じだと俺は思う。まぁそのために我々がいるのだがな!

山吹 薫
山吹 薫

でも実際問題として、転倒リスクの申し送りだけになる事もあるから、それは今後は少しずつ改めて行く必要もあるかもしれませんね。医師や看護師から送られる情報は主に安静時にどうであるかの情報ですから。その状態で運動するとどうなるかという情報は、僕たちセラピストのひとつの大きな役割ですからね。

どっかで聞いたな?と岩水は笑みを浮かべ、どうでしたかね?と山吹はシラを切る。自分はこの人たちより臆病だと白波は思う。リスクを知った上でリハビリを進める事はまだ出来ない。でもきっと出来る事もあるような気がする。急変した患者様と昔に亡くなった祖母の姿が頭に浮かぶ。

岩水 静
岩水 静

極論する今までと同じような生活を送る。それを提供する上で身体機能だけの指導では無く様々な疾患に特異的な指導もまた同様に必要だ。そして在宅での運動時に何かそれぞれの疾患の進行の予兆が早期に分かれば、対処も早い。

山吹 薫
山吹 薫

多くの患者様はその予兆を知らない事も多いから伝える必要もありますね。そしてどんな症状も重症化の前に対処が行えれば、入院したとしても早期の退院につながりますね。

白波 百合
白波 百合

誰だって病院に長く居る事を望まないっすからね。早く家に帰っていつまでも住み慣れた家での生活を続けたいっす!

岩水 静
岩水 静

その通りだな!そのために入院中の経過は基礎疾患も含めて行う必要があり、そしてそれは運動時の所見と、何よりも患者様に医師と共に指導を行う。在宅では運動時に多くは初期症状が出るからそれを見逃さないって事だな!長く自分らしい生活をするためには俺はそれが必要だと思うよ。

がっはっはと岩水は笑う。白波はその迫力は自分の心に掛かる暗い雲を吹き飛ばすような気がした。そして白波は自分に昔話をした後、深く沈んだ表情の山吹も思い出した。その時に感じた感情。それを思い出した時突然、なんだか心が晴れたような気がした。視界が開けるとも言える。・・・なんだ自分がやりたいリハビリは単純な事だったっすね。そう思い白波は岩水とともに笑う。なんだか久しぶりに心の中から笑った。そんな気がした。

白波百合のノート 131

・在宅でも様々なリスクがある。その中で内部障害を起因とするものも多い。疾患に特異的な生活指導が必要。

・リスクについては互いに知っておく。そしてその初期症状は運動時に多く起こるからその初期症状を見逃さない。

・自分のやりたいリハビリテーションはこんなにも単純な事だったんすね。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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