床ずれの話 その③ 〜床ずれにならないようにするべき事〜

褥瘡

ふむ。しかしこの人は多分見た目では測れないな。がっはっはと尊大に笑う岩水静を見て、沢尻悠はそう思う。過去の事を知っている事もそうなのだけど・・・と思った。

沢尻 悠
沢尻 悠

色んな事が重なって褥瘡のリスクが高まる事はわかったけど、大切なのはまずは褥瘡の予防だね!発症しなければ治さなくても良い!

岩水 静
岩水 静

ふむ。なんだか懐かしいセリフだな。そうだな。まずはもちろん体位変換だな。除圧に越した事はない。基本的に二時間ごとに行うべきだがこれは相手と自分の体格は大きく影響する。自分が小柄で相手が大柄だと頻回な体位変換は大きく負担となる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやなぁ。ちっちゃなウチがでっかい岩水さんを動かそうとは思えへんもんなぁ。自分の腰を痛めたら元も子も無いわ。

山吹 薫
山吹 薫

そういう時にもいろいろな方法もある。横向き30度が基本ではあるが、あくまで目安だ。一気に姿勢を変えるのではなく少しずつ姿勢を変える。もしくは支えているクッションを少しずらして見る。これも重要な除圧だ。そして我々は寝返りの練習や離床の習慣など、特に脳卒中の発症初期では褥瘡予防という点でそう言った練習が必要となる

山吹薫はいつもの不器用鉄面皮振りを発揮している。坪井咲夜は知ってか知らずか、おそらく知っているのだろうけど多分それは白波百合の出した一つの答えによるものだろうと思う。

岩水 静
岩水 静

他にも体位変換を容易にするスライディングシートを利用するのも一つだ、それを使って仰向けでも背中に手を入れる。これも重要な除圧だな。

沢尻 悠
沢尻 悠

それに福祉用具、特に体圧分散寝具の利用も一つだね!車椅子ならその人にあったクッションの選定かな?それは専門の人に相談しながらになるけど、自動的に体位変換や圧の位置を変えてくれる寝具もあるから、その仕様も検討もまた褥瘡が発生する前に検討が必要だね。褥瘡が出来た後だとそれ自体が摩擦を生むこともあるから相談しながら仕様が必要だねー

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それにスキンケアもまた重要やな。皮膚の湿潤、まぁ排泄による汚染による海洋などから褥瘡発生に繋がることもあるねんから、クリームなどの塗布が必要やったり、優しく皮膚を洗って清潔を保つことも必要やな。そして痩せている人は予防するテープもまたあるねんから、それも使用するのもまた必要ってことやな。

山吹 薫
山吹 薫

そして当然栄養状態の維持改善もまた必要だ。栄養状態が低下していないか、体重減少が続いていないか、そもそも食事は取れているかという事だな。それは褥瘡発生のリスクを継時的に変化させるから把握がまず重要だ。

後輩が出した答えと成長。それは先輩のとって嬉しいものだが、それを目の前にして自分を振り返る時に焦りもまた生まれるのも当然だ。それは確かに山吹さんも同じみたいだねぇと沢尻は思う。

岩水 静
岩水 静

そして褥瘡が発生してしまった場合にも治療の仕方は様々ある。まずは塗り薬、いわゆる外用薬というものだな。目的によって様々あるが、浅いものには保護と湿潤環境と保ち皮膚の再生を、深いものには肉芽の形成や創部の縮小を、そして感染などの合併によってそれぞれ適切なものが選択される。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてドレッシング材の仕様、これは傷を覆う医療用材料の事で、外部からの刺激や汚染を防ぐものだね。そして覆ってしまうから適度な湿潤環境を十分に保つ事が出来るから創傷の治癒に役立つね。

山吹 薫
山吹 薫

そして褥瘡部分の消毒や洗浄を行い、そもそもその部分を清潔に保つ事もまた必要だ。特に感染兆候が進むと厄介だ。そしてそれよりも進行しつつ壊死組織が発生すると治癒促進のためにデブリードマン、いわゆる外科的な治療により切開や切除などを行い地用の阻害となる部分を切り取る。その後に再建術という・・・まぁ傷を皮膚で閉じる方法がとられる事もあるがそれはあくまで高度に進行した場合だな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

うわぁ聞くだけで痛ったいわー!でも、塗り薬やドレッシング材で治療してても治癒が難しくて、骨まで見えるくらいに悪い、しかも感染や壊死まで起こしているとなると、そこから全身に感染が広がったら大変やろ?そうするしかないもんなぁ。

岩水 静
岩水 静

それ故、我々リハビリの行う役割は大きなものとなる。普段と同じように動けたら問題はないし、除圧のための方法を一緒に検討し介護負担を軽減する。適切な福祉用具を一緒に考える。それだけでも違うものだよ。

そうやんなー!と坪井は大きく手を挙げる。それをみて満足そうに岩水は頷き、山吹はフッ息を漏らす。それを見てらしくないなと沢尻は眼を細める。

沢尻 悠
沢尻 悠

確かに長期臥床で動けなくなると、特に療養されている方ではそうだけど、そこから元通りの生活に戻る事は難しいかもしれないねー。だけども状態に合わせて体位変換したり、ベッドに座ったりするだけで全然違うもんねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやなぁー。それに発症初期ではベッド上での生活が主体になるやろ?当たり前の寝返りがすっごい難しいときもあるもんなぁ。ついつい歩行練習とかを積極的に進めたくなるねんけど、そういう練習もまずは必要やなぁ。

山吹 薫
山吹 薫

もちろんだ。ベッド上での生活主体ならその場面に、車椅子上の生活が主体ならその場面に合った除圧の方法を指導や練習を行う必要もある。当たり前な事こそ難しいんだよ。

その言葉に坪井は首をかしげる。おそらく思っている事は同じだろうと思う。らしくない。なんだか沢尻は眉間に皺が寄るのが感じる。そしてまっすぐと岩水を見る。岩水は尊大な笑みを相変わらず浮かべている。

沢尻 悠
沢尻 悠

いやぁ今回は本当に勉強になりました!まぁ今回は概論でしたからそのうちもっと深いところまで掘り下げましょー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやなぁ!それに山吹さんの昔の話も聞きたいしなー

山吹 薫
山吹 薫

その必要は無いだろう。

岩水 静
岩水 静

いや、その必要はあるだろうな。必要な答えは未来にだけあるもんでも無いだろうに。それに昔からお前は一人で何でもやろうとするからなぁ。最後の時に主任はお前に何と訪ねた?そしてお前は主任は何と答えた?そして主任はお前にどう答えたんだ?もう一度言うが、必要な答えが未来に必ず有る訳では無い。過去にこそ転がってるもんだろう。

知っていたのですか?との問いに岩水はさぁなと答えた。その短いやり取りの中には数え切れ無いほどの日々が横たわっている。そんな気がした。

岩水 静
岩水 静

じゃあな若いセラピスト諸君!そして山吹!お前のサマリーの添削したものをそこに置いておいたからよく目を通せ。良くはなってきたがまだまだ独善的だ。改めろ!

山吹 薫
山吹 薫

余計な事を・・・とは言いませんがまぁ考えておきますよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いやそれはアカンやろ!って見せて見せてー・・・っておぉう。中々に血だらけのサマリーや・・・

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁオレらもまだまだ伸びしろ満載って事だねー。山吹さんがんばれー!

はっはと笑い声だけを残して岩水は去る。どこか懐かしげにそのサマリーを眺める山吹を見てやっぱりらしくない。そう沢尻は眉間に皺を寄せた。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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