COPDの話 その③  〜治療と並行して行う必要なこと〜

COPD

しかしあの人はどんな人なんやろな。坪井咲夜は沢尻悠の話を聞きながら、母のリハビリテーションを担当してくれたセラピストを思い出した。

沢尻 悠
沢尻 悠

今までCOPDの病態と治療を話しをてきた訳だけど、その中で呼吸リハビリテーションもまた重要な位置を占めると思うんだよね。もちろん運動療法もまた重要だけどそれ以外にもやるべき事は沢山ある。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。オカンのリハビリを見ていたけど、人工呼吸器を付けて離床したり色々びっくりする事もまた多かったわ!しかもウチと同じくらい小さくて幼い顔立ちの人やったから余計にや!でも結構ベテランな感じもしてんで。

ん?と沢尻は一度首を傾ける。坪井はあんなに緊張した現場で、冷静に立ち振る舞う良く出来た陶器のような横顔を思い出す。

沢尻 悠
沢尻 悠

まずはそもそもCOPDの重症度の話だけど、それは一秒率、つまりは一秒間にどれだけ息を吐けるかを、正常値と比較した数値でも決めらているんだよね。まぁ気管の障害の度合いとも取れるけど、それでⅠ期から4期まで分類される。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。Ⅰ期は軽度で一秒率が80%以下、中等度になるとⅡ期と呼ばれて50%ー80%の間やね。そんで高度となるとⅢ期に入って30%ー50%、そして極めて高度の気流閉塞は30%以下でⅣ期となる訳やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー!数値で見るとそうだけど、1期だからといっても生活は制限される事もまた多いから注意。それにⅡ期以降は半分以下に近づく訳だから本当に辛いと思う。GOLDっていうCOPDに関してのガイドラインではその病状の進行に合わせて薬物療法が処方されるんだけど、ワクチンの接種と呼吸リハビリテーションは全ての時期に当てはまるとっても大切な事なんだよねー。

どうやったらあんなにカッコよく成れるんやろなぁ。と坪井はICUでのリハビリを思い出しながらそう思う。窓越しいながめているだけしか出来なかったのは正直悔しかった。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてリハビリだけど、様々な状態に合わせて介入が必要になるんだよね。そして入院してリハビリが処方されるタイミングでは急性増悪後の状態が多いからまずそれを意識する事が必要だね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ふむふむ。一概に体力の向上や筋力の増強といった話ではない訳やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

もちろんそれも必要だねー。本当に考える事は多くて話せるのはその一部だけど、その患者様の状態に合わせて介入が必要。さっきも話したみたいに単純にCOPDだけを患っている方は少ないくらいだとオレは思うさー

本当にそうだと坪井は思う。あの後度々リハビリを見学させてもらっていた。悪いとは思いながらもどうしても見ておきたかったのだ。人工呼吸器から離脱して、少しずつ点滴が外れていく姿はデータを見ずとも良くなっている。そう感じさせてくれた。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてリハビリの目的に、呼吸器疾患を患う患者様に対して可能な限り機能の改善や生活の維持を目標に行われるの。もちろん患者様がその疾患を自身でコントロールしながら普段の生活を送れるようにって感じかな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどな。そのために継続的な呼吸器に主眼を置いた評価を定期的に行いセルフコントロールを助ける。そして可能な範囲で行える運動から身体機能の向上を図り、結果として呼吸困難感の軽減に繋げるって事やんな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そのために行う事は運動だけではないって事が大切だね。もちろん運動療法もとっても必要だけど、禁煙指導、セルフマネージメントの指導、生活指導や栄養指導。栄養もまた重要でCOPDの多くは痩せてしまう方も多いからね。それに・・・家族や本人への心理的なサポートも必要になる。

そやな。と沢尻に坪井は笑みを浮かべてみせる。その裏に隠された言葉は言わない事にして。直接的な言葉だけが相手に伝える手段ではない事とは、この器用な男の不器用な仕草で理解は出来た。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして多くはリハビリと並行して当然酸素療法もまた並行して行われるね。当然体の中に多くの酸素を取り込めない訳だから、それをサポートする意味で行われる。もちろん高度の場合には人工呼吸器等もまた選択される。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。肺の機能が低下していくと、普通の呼吸だけでは賄えない部分もあるし、そっから低酸素血症まで至ると怖い状態に陥るもんなぁ。それにリハビリが進んでも自宅でも酸素の使用が必要になる事もあるし・・・やけどもそれは生存率もまた上がるからええ事かもしれへんな!

沢尻 悠
沢尻 悠

起きている時には息苦しいと自分で沢山呼吸したりとコントロールは出来るけど、寝ている時にはそうはいかないから、夜間には必要って人も多いのね。そしてガイドライン上では第Ⅳ期、極めて高度の気流障害が起きた時に使用されると書いてあるけど、あくまで絶対的では無く相対的だと感がえる必要があると思うよー。生活の質をどれだけ保つか。その人の苦痛にならないようにって訳だね。

人としてセラピストとして・・・それの狭間で揺れ動いているからこそ、他者に何かを出来る。それは自分の家族にもって事やな。と坪井は思う。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして自宅での酸素療法を行う上で大切なのは取り扱いに加えて災害時の対応だったりするんだよね。かかりつけでも良いし。ケアマネージャーさんとも日頃からどうやって対処する事を考えておく事が必要だね。緊急連絡先もまた普段から目に付く事もまた必要だね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それは案外退院する時にもしっかりと伝えとかなあかんなあ。そう考えてみるとホンマに見なあかん所とやらなあかん事も多いやな!

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだね。だからこそ出来る事もまた多いんだよ。じゃぁちょっと休憩してどうやってリハビリを進めていくかを話そうか。

やな。と坪井は足を揺らしてそう答える。そして全くウチの周りにはこんなに不器用な男しかいいひんのやな。と柔らかく笑みを向けた。

坪井咲夜の手帳 その7

・COPDは気流障害、一秒率で重症度が決められてその程度で治療の方針は決まる。

・ワクチン接種と呼吸リハビリテーションは全部に必要。そしてその時々で目的は変わる。

・やらなあかん事が多いからこそ、出来る事もまた多い。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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