しかし今日は珍しく主任がいない。いつもは当然のようにこの救急科のリハビリ室のデスクにいるはずなのにと進藤守は辺りを見渡す。
それじゃぁICUでのリハビリの基本的な部分を話して行こうかなー。まずは体位管理だね。多くのデバイスで生命の危機を乗り越えようとしている間は特にベッド上での生活を余儀なくされる。だから若い人だって褥瘡になるリスクはある。それにエアマットで一日中寝ていると体の筋肉は強く強張るからそれを予防するためにも必要なことさー
確かにそうですね。生命に直結するようなデバイスも多くあります。それがストレスになったり過度に姿勢を変えてしまうことでそれが抜けてしまっても大変ですから。リハビリ中だけではなく他職種で協力して安楽で効果的な姿勢を見つけていく事が大切ですね。
確かに適切な姿勢っていうのも難しいし、その人の普段の姿勢によっても違ってくるからなー。特殊な環境だからこそ配慮が必要な事なのかもしれないな。
辺りを見渡す進藤守の視線に気がついたのか内海青葉が頬を歪ませ笑みを作る。厚いレンズの向こうの表情はまだ見えない。その表情に山吹薫が目を丸める。
それにただの除圧だけではなくて体位変換を行うということは当然呼吸リハビリテーションの一つである体位ドレナージにも繋がってきますよね。
もちろんそうさー。排痰の促進や酸素化の改善という目的もそこにはあるねー。特に背面、肩甲骨の下に広がる肺の部屋はとても広いし仰向けに寝ているとそこが押されて十分な酸素が入らないし痰も溜まりやすい、そこへの圧を解除するのもまた必要なことだねー
そうですねー。しかし状態はもちろん人によって違いますよね。例えば誤嚥性肺炎に伴って非常に状態が悪くなりICUに入室する必要がある人ばかりではありませんから、特に交通外傷なんかで骨盤を骨折していたり循環が高度に不安定な方などはそれが難しかったりしますよね。
ふふーん。と内海は体を揺らして進藤の顔を覗き込んでいる。相変わらず本当にこの人の考えていることは分からないなと進藤は笑みを含む。
もちろんそれはその通りだよー。だからこそボク逹もまた必要なんだよねー。許される範囲で褥瘡予防や筋肉の過緊張を防ぎつつ酸素化改善と排痰の促進を目的に体位変換を行う。ついつい体を動かしてしまう事も加味してデバイス類の動線も考慮に入れて行うのが専門的な体位変換だと思うよー。
確かにそれはどの分野でも同じだとは思いますが、しっかり病態を把握して、安静度を考慮にした上で専門職としての役割を果たす。ふむ。確かに大切です。
まぁ何事もそうだよな。一つの行いで一つのメリットだけではなく、一つの行いで幾つものメリットを得る。もちろんデメリットは最小限にって事っすね!
さっきから良い事言うねー。との内海の言葉に進藤はうへへと表情を崩す。それを見て山吹はなんとも言えない表情で進藤を見て、何だか最近こいつはおかしいとそんなことを思った。
山吹薫の覚書89
・当たり前のように行う体位変換も重要なアプローチの一つとして考える。
・褥瘡予防、筋緊張の緩和意外にも呼吸リハビリテーションの一つとして考える。一つのアプローチで多くのメリットを得ようとする事が大切。
・なんだか進藤もまた医療従事者のような。そうか・・・こいつもまた新人ではなくなるのだな。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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